抄録
【はじめに】変形性股関節症(以下変股症)は、先天性股関節脱臼に起因し跛行・疼痛・マルアライメントの増悪を伴う疾患である。特に変股症に変形性膝関節症(以下変膝症)を合併したcoxitis knee といわれる症例は、下肢・体幹のアライメント異常から治療に難渋することが多い。今回両変股症と強度な外反膝変形に対し人工股関節置換術(以下THA)・大腿骨矯正骨きり術、人工膝関節置換術(以下TKA)を施行した症例を経験した。理学療法はマルアライメントに対する補高と体幹・骨盤への介入が、各関節の疼痛と歩容の改善に効果を認めた。今回本症例の術後経過と理学療法について報告する。症例には本件に関し十分説明し同意を得た上、当院個人情報保護の規定に従い報告する。
【症例提示】66歳女性 <診断名>両脱臼性変股症・両変膝症
<既往>先天性股関節脱臼、交通外傷による右大腿骨骨折変形治癒(S39年)
<病歴>H14,8月より右股・膝関節痛出現 10月当院外来理学療法(保存治療)開始 H15,12月右THA H16・4月退院 H16,8月右膝外反変形に対し右TKA・大腿骨矯正骨きり術 H17・2月退院 以後外来通院中
【画像所見】全下肢レントゲン像にて右FTA計測 術前152度 右THA術後158度 右TKA術後170度まで改善
【評価】股関節ROM 術前屈曲/伸展右70/-30 左60/-15 外転/内転右0/25左0/20 膝関節ROM 屈曲/伸展右130/-40 THA・TKA術後には股関節ROM伸展右0左-5外転右15、膝ROM右伸展0度に改善した。術前SMDでは1cmの差で左脚が長いが、右骨盤下制が強く見かけ上約4cmの差を認めた。
【理学療法経過及び考察】術前右膝は強度の外反変形・大腿骨も外反弯曲し右股・膝関節の疼痛が強く著明な跛行であった。骨盤前額面の高さは、右内転の可動域はあるにもかかわらず、右骨盤が下制し右膝の強い外反と下腿の外捻、足部外転位であった。まず右THAが施行され若干FTAの改善は見られたが、脚長差が強くなり左に補高靴(約2cm)を施した。術後も膝屈曲・外反位をとりやすく膝痛は軽減せず、右膝TKAと大腿骨矯正骨きり術を9ヵ月後施行した。術後FTAは著しく改善し右下肢痛は消失した。しかし脚長差はさらに増加し約4cmの補高靴を作成した。下肢筋力強化と共に骨盤・体幹のアライメントにも着目し、右骨盤の挙上・腰椎可動性の向上を目的に行った。骨盤位の修正により補高は約2.5cmで許容できた。しかし左股関節の変形は末期で外転可動性がなく骨盤の修正には難渋した。歩行は術前の強い跛行が著明に改善してきている。coxitis kneeの症例には、荷重多関節の障害に対し補高の調整と体幹・骨盤へのアプローチが、荷重連鎖や身体各部に波及する影響を十分考察して理学療法を展開していくことが重要である。