抄録
【目的】
円背姿勢を呈する患者は体重心を足底接地面内へ移動させことが難しくなり、立ち上がり困難となることが想像される。しかし、臨床場面では上手く立ち上がる患者を認める。
そこで今回、立ち上がり可能な円背姿勢を呈する患者について、立ち上がり動作時の体幹挙動のパターンについて検討した。
【方法】
対象は運動障害をきたす中枢神経疾患を有しない円背姿勢を呈する患者とした。女性3例、年齢85±4.3歳、身長146±4.2cm、体重55±1.6kgであった。主治医の承諾を得て本研究の目的と方法を説明し同意が得られた後、計測を行った。立ち上がり動作時の坐面の高さは、開始時に足底面が全接地し膝関節角度がほぼ90度になるようにし、上肢は軽度前方に挙上し動作中に大腿や、坐面を支持しないようにした。立ち上がり動作速度は特に規定せず自由起立とした。
被験者に、直径3cmのカラーマーカーを後頭隆起、額中央、第7頸椎棘突起、第7、12胸椎棘突起、第3腰椎棘突起、上前腸骨棘、上後腸骨棘、右体表上の大転子、膝関節外側裂隙、足関節外果、第5中足骨頭の合計12ヶ所に貼りデジタルビデオカメラで記録した。録画した映像はPC上で画像解析ソフト(ライブラリー社:Move-tr/2D)を用いて空間座標を標定した。同時に重心動揺計(アニマ社:G-610)を用い動作時の足圧中心(COP)変化を記録した。
【結果】
動作開始直後にCOPは後方に大きく移動し、その後前方に移動して一定位置となった。このCOPの後方から前方への移動量と体幹前傾角度に違いが認められた。
動作は2パターンに分かれた。1)COPの前方移動量が少ない患者では、殿部が坐面から離れるまでの間の体幹前傾角度は少なく、殿部が浮いた瞬間から体幹、股・膝関節が伸展し重心の上方移動が始まった。2)COPの前方移動量が多い患者では、殿部が坐面から離れるまでの間の体幹前傾角度は大きく、殿部が浮いた後も体幹は伸展せず、股・膝関節が伸展し重心の上方移動がみられた。
【考察】
COPの前後方向への偏移と、体幹の前傾角度の変化から脊柱円背変形を呈する患者の立ち上がり動作が2パターンに分けられた。体幹の前傾角度の違いにより体重心位置に違いが生じ、殿部が浮いた後の体重心位置の違いにより体重心を上方に移動させるための筋活動も変化すると考えた。この体重心を上方に移動させるための筋活動の違いから、立ち上がり動作時に2パターンの体幹挙動が認められたと推察した。