理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 448
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骨・関節系理学療法
膝窩筋の位置と機能からみた膝窩部痛の発生機序
*国中 優治壇 順司高濱 照
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キーワード: 膝窩筋, 膝窩部痛, 膝屈曲
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抄録

【目的】膝関節疾患の治療において膝屈曲時の膝窩部痛はしばしばみられ、一般的にその原因を膝窩筋に絞ることが多々ある。しかし関節運動における膝窩筋の位置やその機能について詳しく説明したものを散見しない。そこで今回遺体ではあるが、膝窩筋の位置と膝関節運動時の機能から膝窩部痛の発生機序について検証したのでここに報告する。
【対象】熊本大学大学院医学薬学研究部形態構築学分野の遺体で、大腿骨・脛骨の可動性が充分保証されている右膝1関節を用いた。
【方法】1)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位へと可動し、大腿骨と膝窩筋の接触の有無について後方から観察した。2)脛骨に対し大腿骨を最大伸展位から最大屈曲位に可動し、その外側顆部の回転運動について観察した。又、それに伴う膝窩筋腱の動態及び筋が伸張し始める膝関節角度を計測した。3)脛骨に対し大腿骨を内外旋し、膝窩筋腱の緊張を観察した。4)膝窩筋腱の起始部を大腿骨外側顆部にて精査した。
【結 果】1)最大屈曲位においても大腿骨と膝窩筋との距離は保たれ、両者が接触することは無かった。2)大腿骨外側顆部は屈曲開始時、軸回転と共に転がりによる回転軸の後方移動が見られた。その後最大屈曲位に近づくにつれ軸回転主体の運動が見られた。0°から60°屈曲では後下方から前上方に斜走する膝窩筋腱が長軸方向に伸張された。屈曲60°から100°屈曲では膝窩筋腱は伸張されず、大腿骨外側顆部の転がりにて起始部が後方移動し、腱の長軸が垂直位となった。その後弛緩状態が120°まで続いた。120°から最大屈曲では、大腿骨外側顆部の回転軸を中心に膝窩筋腱起始部が上方に移動し垂直方向に伸張された。3)膝窩筋は大腿骨の脛骨に対する内旋にて緊張し、外旋にて弛緩した。4)膝窩筋腱起始部は、大腿骨外側顆部膨隆部にある回転軸(外側側副靱帯付着部位)の下方であった。
【考察】膝屈曲時の膝窩部痛は角度が増すことで発生又は増強することから、膝窩筋が大腿骨と脛骨に挟まれ圧迫を受ける可能性が考えられていたが、今回の観察では膝窩筋は大腿骨に挟まれないことが判明した。これは膝窩筋停止部である脛骨後上方が凹状であり、そこに膝窩筋が位置することで大腿骨後顆部の接触を回避しているものと考えられた。解剖書によれば膝窩筋の作用は膝屈曲及び下腿内旋とあるが、今回の観察では、下腿内旋作用は推察できたものの膝屈曲においては初期屈曲及び深屈曲において膝窩筋腱が上方に移動し、特に120°から角度を増すにつれ膝窩筋腱が強く伸張された。また、起始部の精査においても大腿骨外側顆部の回転軸下方に位置していたことからも大腿骨外側顆部を後方に回転させることは不可能であった。つまり膝窩筋の作用は屈曲でないことも示唆された。従って膝の屈曲による膝窩部痛は膝窩筋が伸張され発生することが考えられた。

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© 2006 日本理学療法士協会
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