抄録
【目的】高齢者の日常の運動習慣と介護予防には深い関連があることは周知の通りであるが、日常の運動習慣に関しては気候や地域による格差も考慮しなくてはならない。今回、日常の運動習慣が都市部に比してより身に付いていると思われる農村地帯において、デイサービスを定期的に利用している高齢者に対し、2年間の追跡調査を行ない、若干の知見を得たので報告する。
【方法】山口県某市の農村地帯において、1ヶ月に2回の介護予防・生きがい活動支援事業によるデイサービスを利用している高齢者の中から平成15年7月以降、文書により同意を得て運動介入の効果判定等の調査を継続している高齢女性23名(74歳から89歳、平均年齢81.9±3.5歳)を対象とした。心身機能評価は運動介入前の初期時(以下初期時)、3ヶ月間の運動介入後(以下介入後)、初期評価時より2年間経過後(以下2年間経過後)の合計3回行なった。評価項目は握力、背筋力、10m努力歩行速度・歩数、開眼・閉眼片足立ち、タンデムバランス、20・30・40cm台からの立ち上がり、老研式活動能力指数、Mini Mental State Examination (以下MMSE)とし、これらについて一因子反復測定分散分析を行なった。また、同時に日常の運動習慣に関して質問形式の調査を行なった。
【結果】2年間の3回の評価結果のうち握力、10m努力歩行歩数、開眼・閉眼片足立ち、タンデムバランス、20・30・40cm台からの立ち上がり、老研式活動能力指数およびMMSEに有意差はみられなかった。有意差がみられたのは背筋力(p=0.014)、10m努力歩行速度(p¬=0.004)であった。日常の運動習慣に関する調査では対象23名のうち91.3%にあたる21名から何らかの運動習慣があるとの回答が得られた。
【考察】初期時、介入後、2年間経過後の各データ間の分散分析において、背筋力と10m努力歩行速度以外に有意差はみられなかった。これは運動介入が終了して約2年間経過しているにもかかわらず、数値が維持できている状態と考察することができる。長野県K村における調査研究による性・年代別基本統計量では、日常の運動習慣は80歳から84歳の一般女性で35.2%であり、加藤らが行なった転倒予防教室での調査では、参加女性40名(平均年齢65.7±6.0歳)中、日常の運動習慣があったのは26名(65%)であった。今回の対象者は農村地帯に在住している高齢者であり、日常の運動習慣として農作業を挙げる者が多くみられ、このことが介護予防に深く関与していると推察できる。加えて、定期的にデイサービスを利用することにより、健康や介護予防に対する関心の高まりや利用者間の情報交換などを行なうことができ、これらが今回の調査の結果に繋がったのではないかと考察する。