抄録
【緒言】超音波を皮膚に照射すると、薬物の経皮吸収を促進する。この促進方法はソノフォレーシス(sonophoresis)と呼ばれている。薬物を皮膚に適用すると、角質層、表皮、真皮を経由して毛細血管から直接全身循環に入るため、理論的には非侵襲的に注射と同等の効果を発揮する。しかし、皮膚の角質層のバリア機能が経皮吸収の阻害因子となり、適用可能な薬物の種類を制限している。このバリア機能に抗して体内に薬物を透過させる方法について多くの研究が、in vivoとin vitroの条件で行われている。その中で経皮吸収促進方法の一つに超音波を利用したソノフォレーシスが挙げられる。ソノフォレーシスによる促進は4つの超音波パラメーター、周波数、強度、衝撃係数、投与時間によって決定される。本研究では、Wistarラットにおいて、高周波数超音波(500 kHz~)の経皮吸収量との関連性について比較対照試験することを目的にした。研究仮説としては、超音波の出力量に比例して経皮吸収量も増加することを予想した。
【方法】ラットは麻酔下で背臥位に固定した。腹部の剃毛部位の皮膚上にガラス製のセルを固定した。セル内をフルオレセイン溶液8.5 ml(濃度1 mg/ml液)で満たし、薬物投与を行った。超音波プローブ(直径:1.6 cm)をセルの上端に固定し、ラットの皮膚に照射した。薬物投与直後、10,20,30,60,90,120,180分後に経時的に頚静脈から採血を行った。血漿中フルオレセイン濃度を分光蛍光光度計により測定した。超音波は薬物溶液を媒体にしてラットの腹部の皮膚に照射した。超音波は周波数1 MHzとし、各動物に薬物投与開始5分後から、以下の3種類の条件で照射した。
US1. 強度1 W/cm2,30分間,50%パルス波
US2. 強度1 W/cm2,10分間,20%パルス波
US3. 強度2 W/cm2,10分間,10%パルス波
【結果】いずれの照射条件においても非照射時に比べて、超音波照射により血漿中薬物濃度が増加する結果が得られ、超音波照射によるフルオレセインの経皮吸収促進効果がみられた。超音波照射終了後も薬物が経皮吸収される結果が得られた。
【考察】本実験では、超音波非照射群に比べてすべての照射群において血漿中薬物濃度が増加し、ソノフォレーシスによる経皮吸収促進効果が認められた。強度の大きさが吸収促進程度に影響を与えるわけではなく、強度と実質照射時間から算出される超音波エネルギー密度が薬物吸収促進程度を決定していると考えられる。
【まとめ】Wistarラットの皮膚にフルオレセインを投与し、超音波を照射することにより、フルオレセインが経皮吸収され、血中薬物濃度が上昇した。また、照射した超音波エネルギー密度の増加に従い、血中薬物濃度も増加した。