抄録
【目的】現在,低出力超音波照射が骨形成に促進的に作用することが報告されているが,骨形成促進機序や至適照射量などについては不明な点も多く,また異所性骨化に及ぼす影響についての研究は皆無といっても良い.そこで本研究の目的として,骨形成因子(Bone Morphogenetic Protein:BMP)をマウス筋肉内に移植し,実験的異所性骨化モデルを作成,超音波照射がどのような影響を与えるのかを検討することとした.第13回日本物理療法学会にて第1報を報告したが,その後,例数を増やし若干の知見を加えた.
【方法】実験動物はddY種マウス,オス(5~6週齢)を用いた.ブタの長管骨皮質から抽出された粗製BMPの粉末10mgを,No.5ゼラチンカプセルに詰め,移植用BMPとして用いた.マウスの大腿部ハムストリングス内に移植母床を形成し,両側にBMPカプセルを移植した.超音波照射器は,伊藤超短波社製US-700を使用した.マウスの右大腿部を照射側とし,手術翌日より3週間にわたり毎日1回,10分間,照射率20%,周波数3MHzの条件で超音波を照射した.マウスは出力ごとにグルーピングをし,0.1W/cm2(以下0.1W/cm2群)6匹,0.5W/cm2(以下0.5W/cm2群)8匹,1W/cm2(以下1W/cm2群)7匹とした.各マウスの左側移植部を非照射側とした.移植3週間後にマウスを安楽死させ,新生骨部位を摘出し,灰分重量を測定,その値を対応のあるT検定を用い,照射側と非照射側で比較検討を行った.
【結果】形成された異所性骨の灰分重量は,0.1W/cm2群非照射側(24.37±16.36mg)より照射側(14.48±13.04mg)が有意に低下しており(p<0.01),同様に1W/cm2群非照射側(13.74±8.40mg)より照射側(9.92±9.54mg)が有意に低下していた(p<0.05).0.5W/cm2群においては非照射側(12.16±7.84mg)と照射側(7.76±4.68mg)では,有意差はみられなかった.
【考察】実験結果より,超音波照射が新生骨形成に抑制的に働く可能性が示唆さされた.出力により灰分重量の差はみられなかったが,骨癒合促進を目的とした超音波照射よりも高出力であるため,出力により,骨形成に対して促進的に働く場合と抑制的に働く場合があると考えられる.以上のことから,超音波照射の異所性骨化に対する予防的な利用法もあるのではないかと示唆された.
【まとめ】マウスに異所的に骨を形成するBMPを移植,実験的異所性骨化モデルを作成し,超音波を照射した.形成された骨の灰分重量を測定し,照射側と非照射側を比較検討したところ,0.1W/cm2群,1W/cm2群の照射側が有意に低下しており,超音波照射が新生骨形成に対し,抑制的に働く可能性が示唆された.