抄録
【はじめに】長期臥床による筋萎縮の研究は古くから行われ、筋力に関する研究では、1週間の臥床により10から15%、3~5週間では50%低下するといわれている。また、立野らはマウスの後肢懸垂モデルにて2週間で筋の湿重量が20%減少したと報告している。こうした量的な研究から最近では質的な検討がなされてきたが多くは動物実験である。我々は第41回本学会で献体された2症例より、入院期間の違いによる筋萎縮の変化を肉眼的観察および筋組織の横断面より検討し報告した。そこで今回は筋組織の縦断面からの情報を加え検討したので報告する。
【第1報の要旨】短期(4日)および長期入院(4ヵ月半)中、肺炎にて死亡した2症例の肉眼的観察にて長期入院例の下腿三頭筋に高度の筋萎縮がみられ、扁平化していた。組織学的にも細胞間の結合組織が増加すると共に筋細胞は減少し、細胞の形態は極度に萎縮していた。
【症例】症例1: 死亡時年齢90歳・女性・身長約145cm・死因;急性胆のう炎にて4日間入院中、誤嚥性肺炎にて急死。症例2: 死亡時年齢92歳・女性・身長約145cm・死因;4ヶ月半入院中、肺炎にて死亡。
【肉眼的観察】症例2は、下肢筋の強度な筋萎縮と共に、大体外側の腸脛靭帯から膝関節下部外側の付着部までの軟部組織に緊張がみられ、柔軟性の低下から膝関節に屈曲拘縮が推測できる。このことより歩行困難となり、臥床を強いられていたことが予測できる。岡崎によると安静臥床後6週間で、下腿三頭筋の筋力低下は他筋と比較して特に大きいと報告され、今回の症例2の筋萎縮と同様の症状である。
【組織学的観察】本献体はホルマリン固定にて保存され、肉眼解剖時に上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。標本はホルマリン固定後、定法にてパラフィン包埋をした。その後、5μmで薄切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色した縦断面を光学顕微鏡にて観察した。症例1では、各筋において筋線維の形状が保たれ、線維間は、結合組織で隔壁され、密集した縦方向への筋線維が観察された。一方、症例2では不規則な筋線維の配列間に多量の結合組織を観察した。また、筋線維数の著明な減少がみられ、結合組織中には多くの核が点在していた。今回観察された症例2の廃用性の変化は、筋線維数の減少のみならず、結合組織の増加など退行性変化が強く認められ、筋の伸縮性低下より理学療法の阻害因子となり得ると思われる。
【まとめ】今回献体より入院期間の違いによる筋の変化について検討し、長期入院者では筋細胞間に結合組織が増加し、筋機能の低下が示唆された。