理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 542
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理学療法基礎系
スリップ時の運動力学的解析
速い歩行速度における解析
*中俣 孝昭畠中 泰彦
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抄録

【目的】高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折などを生じ、寝たきりの直接的な原因となる事が多く、大きな社会問題となっているが、転倒時に直接的に関与する要因に着目した理学療法はほとんど行われていない。我々は第40回理学療法学会において自由歩行における足部スリップ時の運動力学的解析を行い転倒の回避には足関節背屈モーメント、股関節伸展モーメントが転倒予防に関して重要であると報告した。人の姿勢調節においては緩徐な姿勢制御と急激な素早い反応での姿勢制御戦略は異なるといわれている。今回は速い速度で歩行路を歩行させ、足部のスリップが生じた時の転倒、非転倒時の運動特性を力学的に解析することを目的とした。
【方法】実験は本学倫理委員会の了承を得て行った。実験の目的および方法を説明し同意を得た健常男性32例(22.3±2.5歳)を対象とした。プロテクタを装着しマーカを貼付した被験者を歩行させた。歩行時のスリップを誘発するため、シリコンオイルを塗布した塩化ビニル板を歩行路の床反力計上に貼付し、被験者に塩化ビニル底の靴を装着させた。スリップ動作は三次元動作解析装置(VICON社:VICON612)、床反力計(AMTI社:OR6-6)5枚を用い、取り込み周波数120Hzで計測し、滑走足部の速度、関節角度、関節モーメント、関節モーメントのパワーを算出した。算出した各パラメータを転倒した群(以下、転倒群)、転倒しなかった群(以下、非転倒群)の足部接地時、0.1秒時、0.2秒時において比較した。
【結果】転倒群11例、非転倒群10例であった。進行方向への足部速度は非転倒群に比較し転倒群では0.2秒時に増加していた。転倒群の関節可動域は足関節では0.1秒時から0.2秒時で底屈が大きく、股関節においては0.2秒時で屈曲角度が大きかった。各関節モーメントには差がみられなかった。股伸展モーメントから大腿へのパワーでは非転倒群に比較し転倒群においては0.1秒時、0.2秒時で減少していた。
【考察】足部接地後0.1秒以降の股伸展モーメントから大腿へ及ぼすパワーは、非転倒群では大きく求心的に発生することにより足部の前方滑走に対し拮抗するよう作用し骨盤及び体幹などの質量が大きい部位を支持基底面内に納めることで立ち直ったと考えた。一方、転倒群においては小さな求心性パワーから遠心性のパワーに推移するため、足部の滑走に伴い股関節の屈曲角も増加し、足部と重心間の距離も大きくなり転倒したと推察した。今回の結果では足、股関節モーメントではなく、股関節モーメントのパワーに差が生じたことから、股関節の筋の即応性が重要と考えられるが、早い反応に追従するための股関節や骨盤および腰部脊柱の可動性や柔軟性も求められる。また、このような速い速度での転倒は活動性の高い高齢者に生じやすいが速い筋収縮を要求することは難しく生活環境等に対する対応が必要と考える。

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© 2007 日本理学療法士協会
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