理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1231
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理学療法基礎系
下肢筋活動量と足圧中心の非線形解析からみた側方リーチバランスの年齢的相違
*真壁 寿高橋 泉三和 真人日下部 明
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抄録

【目的】高齢者の転倒率は75歳以上の後期高齢者で約30%と言われ、とりわけ後期高齢者の転倒率は高く、転倒による骨折の発生率は75歳以降から急激に上昇する。高齢者の大腿骨頚部骨折の約80%はバランス能力の低下による転倒が引き金となっており、側方への転倒がその大きな要因の1つである。そこで、昨年の本大会において高齢者と若年成人の側方リーチのバランスストラテジーの相違を非線形解析の観点から明らかにした。今回はこの解析に加え、下肢筋活動量を測定し、興味ある知見を得たのでここに報告する。

【方法】対象は同意の得られた75歳以上の健康な後期高齢者13名(平均年齢78歳)、健康な若年成人13名(平均年齢24歳)。静止立位と立位側方リーチ時における足圧中心の動揺と下肢表面筋電図を計測し、若年成人と後期高齢者で比較検討した。足圧中心の動揺はアニマ製グラビコーダG-620を用いた。静止立位は足間距離20cmのロンベルグ姿勢とし、側方リーチは静止立位の姿勢から右側上肢を90度外転し、その姿勢から側方に最大リーチさせた。筋電図は側方リーチ側(右)下肢の腓腹筋内側頭、長腓骨筋、前脛骨筋、母指外転筋から求めた。測定時間は30秒、足圧中心200Hz、筋電図1000Hzでサンプリングした。足圧中心データからは側方移動距離、総軌跡長、前後・左右方向のフラクタル次元および最大リアプノフ指数を求めた。下肢筋活動量は積分筋電図(IEMG)から求め、静止立位のIEMGを1とし側方リーチ時のIEMGを正規化し比較検討した。有意差検定は対応のないT検定を用い、有意水準を5%とした。なお、足圧中心の自由度を表すフラクタル次元はHiguchi法、予測不可能性を表す最大リアプノフ指数はWolf法にて求めた。

【結果】静止立位の総軌跡長は後期高齢者31.6cm、若年成人17.9cmで後期高齢者が有意に大きかった。側方リーチにおける足圧中心の側方移動距離は後期高齢者6.1cm、若年成人12.1cmで後期高齢者が有意に小さかった。側方リーチの総軌跡長は後期高齢者44.7cm、若年成人83.5cmで後期高齢者が有意に小さかった。また側方リーチの下肢筋活動は、いずれの筋も若年成人が高齢者に比べて大きい値を示し、特に前脛骨筋と母指外転筋の筋活動が有意に増加した。一方、フラクタル次元と最大リアプノフ指数は静止立位では両者において有意な差がなく、側方リーチのリアプノフ指数のみが後期高齢者で有意に小さかった。

【考察】結果より後期高齢者は側方リーチ時には重心の移動距離を小さくし、静止立位と同じ自由度で、身体の揺れを予測しやすいように制御し、バランスをとっていることが分かる。このようなバランスストラテジーは若年成人とは逆のストラテジーであり、下肢筋活動量の違いにも現れている。また、この事実は足圧中心の自由度を表すフラクタル次元と予測不可能性を表すリアプノフ指数の変化からも裏付けられる。

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© 2007 日本理学療法士協会
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