抄録
【目的】
我々は,治療的電気刺激(以下,TES)と他動運動を併用する治療法(Electrical Stimulation combined with Locomotion like Movement ,以下ES/LM)を考案し,脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の歩行能力に与える影響について検討している.本研究においては,ES/LM と個々の治療法(TESのみ,他動運動のみ)が,それぞれ歩行能力と歩行時筋活動にどのような影響を与えるかについて比較検討した.
【方法】
対象は,脳卒中片麻痺患者3名(発症後5~7ヶ月) で,歩行能力はT-cane修正自立レベルであった.対象者は無作為にES/LM実施例,TESのみの実施例,他動運動のみの実施例に分け,通常の理学療法に加えてそれぞれの治療を10日間行った.各被験者には研究の主旨を説明し,同意を得た後に治療を行った.
ES/LMは他動運動装置(安川電機社製)と自家製のTES装置を用いて行った.背臥位で他動的にSLR運動(股関節0~40°,1周期10秒)を15分間実施し,先行研究を基に健常者と比較して片麻痺患者のヒラメ筋単シナプス反射が高い区間に抑制目的で前脛骨筋に,低い区間に促通目的でヒラメ筋にTES(周波数30Hz,持続時間300μs,刺激強度は筋収縮が起こる程度)を行った.TESのみの実施例ではES/LMと同様の電気刺激のみを,他動運動のみの実施例ではES/LMと同様の他動運動のみを行った.
評価として,治療前後で最大歩行速度と歩幅を毎日測定し,対応のあるt検定を用いて統計解析を行った.加えて,筋活動の変化を検討するために治療前後の歩行筋電図を計測した.測定部位は大腿直筋,内側ハムストリングス,前脛骨筋,内側腓腹筋とし,得られた筋電は整流及び正規化した後に10施行を加算平均して検討した.
【結果】
ES/LM実施例では最大歩行速度及び歩幅に有意な増加を認めたが,TESのみの実施例ではどちらにも有意な変化を認められず,他動運動のみの実施では逆に有意な歩幅の減少が認められた.歩行筋電図においては,ES/LM実施例で立脚期の内側ハムストリングス及び内側腓腹筋に筋活動の減少を認めた.一方,TESのみの実施例では大きな変化を認められず,他動運動のみの実施では立脚期の内側ハムストリングスで筋活動の減少が認められた.
【考察】
本研究の結果より,ES/LMは個々の治療法(TESのみ,他動運動のみ)と比較して片麻痺患者の歩行能力を即時的に改善させる可能性が示唆される.また,ES/LM実施例では,個々の治療例で認められなかった立脚期での内側腓腹筋の筋活動が減少していたことから,この足関節底屈筋の活動減少が歩行速度および歩幅改善に関与している可能性が示唆される.