理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 736
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神経系理学療法
鏡失認(mirror agnosia)症状の臨床特性とサイドミラーアプローチに関する検討
*網本 和渡辺 学齋藤 和夫宮本 真明梅木 千鶴子宮本 恵黒澤 保壽相澤 高治馬場 志
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抄録

【目的】鏡失認(mirror agnosia、MA)とはRamachandran(1997)らによれば、左半側空間無視症例において、右側方に置かれた鏡に映った左空間に位置するもの(ボールなど)の鏡像に対して手を伸ばし「とれません、これは鏡の向こう側にあります」などと述べる症状である。本症状に関する報告は極めて少なくその臨床特性は十分明らかではない。今回我々は半側空間無視症例においてこの鏡失認を呈するものと、呈さないものを比較検討しその臨床的特性を分析し、さらに治療介入としてサイドミラーアプローチを試みたのでその経過について報告する。

【対象と方法】脳血管障害によって左半側空間無視を呈する右手利きの18例(男性6例、女性12例、脳梗塞13例、脳出血5例)を対象とした。すべての対象者に研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。このうち9例は上記の鏡失認症状を示し(MA群とする)、9例は示さなかった(UN群とする)。平均年齢はMA群78歳、UN群76歳であった。臨床特性に関する分析項目は、画像診断による病巣部位、経過日数、半側無視の程度、病態失認の有無、FIM得点とした。MA群に対して治療介入として、右側方に配置した姿勢鏡の左空間に目標物(ボール)を提示していったん鏡像を注視してから、実物に対してリーチする動作を繰り返すサイドミラーアプローチを施行しその経過を分析した。
【結果】
病巣はMA群では頭頂側頭葉を中心とする広範囲なものが多く、UN群では限局した部位が多かった。経過日数平均はMA群19日、UN群50日とMAは比較的早期に認められた。半側無視の程度は、MA群では中等度から重症であり、UN群では中等度から軽症なものが多かった。病態失認はMA群で9例中6例に認められ、UN群では9例中2例に認めた。FIM得点の平均はMA群で31.4点、UN群で42.7点を示しMA群の自立度は低かった。サイドミラーアプローチの経過は、9例中5例でMA症状の即時的改善(1日から10日のうちに改善)を認め、2例は長期間施行後(4ヶ月後)改善を示したが、2例はこのアプローチによる変化は認めなかった。

【考察】MAの出現は比較的早期に認められ、病態失認との関連もあることから、半側空間無視のなかでも脳機能の全般的低下によってもたらされていると考えられる。ただし半側空間無視の重症度と完全には一致していないため単なる無視症状の重症型とはいえない可能性がある。サイドミラーアプローチはいったん右に惹きつけられた方向性注意を無視空間へと転換するトレーニングであると考えられ、MA症状に対して施行した結果、悪化した症例は認めず、その症状を概ね軽減し得る方法であることが示唆された。今後症例を重ね分析を進めたい。

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© 2007 日本理学療法士協会
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