理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 788
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神経系理学療法
廃用症候群を呈した症例に対する認知運動療法の効果について
*守安 由香小川 円浪尾 美智子木村 英輝金谷 親好森近 貴幸
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抄録
【はじめに】長期臥床による廃用症候群では、関節可動域制限や筋力低下といった身体機能面の問題のみを重視して捉えられることが多い。しかし、それらの問題の背景には身体認知の低下が生じており、そのために様々な問題が起こってくるのではないかと考えた。今回、廃用症候群を呈した患者に認知運動療法を用いたアプローチを行い、その結果を検討したので報告する。
【対象及び方法】脳梗塞左片麻痺の74歳の女性。入院してから約1ヵ月後より徐々にADLが低下し、Barthel Indexは80点から5点まで低下した。起居動作は近位監視から、ほぼ全介助となった。また、「左足は力が入らない。どこが動いているのか分からない。」といった訴えがあった。そこで、左下肢に対して認知課題を中心にアプローチを行った。膝周囲と足底に対するスポンジ接触課題は、背臥位にて下肢前面または後面にスポンジを接触させ、左右差や順序、感じ方を答える課題と、端坐位にて足底でスポンジを踏み、足底がスポンジに接触していることを感じる課題を行った。位置認識課題は、背臥位又は端坐位にて膝関節屈曲角度を2から3段階に設定し、どの位置に足部があるのかを閉眼にて答える課題を行った。
【結果】開始時は、質問の理解不足や集中力、注意力の低下からエラーが多く見られた。左右で違う硬さのスポンジを接触させていても差異が分からず同じものと認識していた。また、麻痺側の方が柔らかく感じる傾向があり、左右逆の返答をしていた。課題を進めていく中で、徐々に下肢へ注意が向くようになった。立ち上がり動作時には、足底で床をしっかりと支持するということが意識できた。立位時には、「左足に力が入らない」という訴えがあったが、「少しずつ力が入るようになった」という発言に変わった。立ち上がり動作時には、膝関節の伸展が出現し、全介助から軽度介助に向上した。
【考察】関節可動域制限や筋力低下は長期臥床による局所的な問題ではなく、身体認知の低下から生じた全身的な問題と捉えることができる。認知運動療法を実施することで注意や知覚などの認知過程を使用し、自分の身体の動きを意識することができたと考えられる。また、動作を行う際の身体の動かし方や力の入れ方を再学習することで、運動機能やADL能力の向上につながったのではないかと考えた。課題を進めていく中で、下肢に対する気付きや感じ方の記述が変化したことも効果の一つである。
【まとめ】廃用症候群に対して、認知過程にアプローチを行うことが有効であると示唆された。認知運動療法により身体認知が向上し、それにより動作の改善が図れると考えられた。
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© 2007 日本理学療法士協会
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