抄録
【目的】第41回日本理学療法学術大会において、高校野球メディカルチェック事業(以下メディカルチェック)の必要性を報告した。今回、長野県高校野球連盟の依頼を受け、県内の一地域を限定してメディカルチェックを実施したので、その結果について報告し今後のメディカルチェックへの展望・課題について検討した。
【対象及び方法】高校野球選手56名(長野県中信地区、16校の1,2年生 投手:28名 捕手:13名 内野手:10名 外野手:5名)を対象とした。検診に対しては整形外科医師6名、理学療法士35名が対応。スタッフが検診の内容を理解し障害特性を十分に配慮出来るよう事前研修を行ない評価の整合性を確認した。評価項目は障害暦や具体的な症状に関する問診、投球Phaseの確認・フォームのチェック、ROM・MMT、アライメント、投球側を中心とした理学所見、医師による診断および総合的な判断の下指導ブースにて理学療法士がケアのポイントについて指導を行った。最後に検診に対するアンケート調査を選手対象に実施した。
【結果】<障害暦> 肩:22、肘:20、腰:26 <主訴> 肩肘障害:21、腰痛:17、その他:18(頚部痛・膝痛・下肢症状等)肩肘関節障害は圧倒的に投手、腰部障害は捕手・野手に多く有意差を認めた。<段階>急性症状6、慢性症状42<疼痛>安静時痛7、運動時痛43。医師の診断結果は診断基準を4段階に分類(Grade 0:問題なし 1:PT指導で経過観察 2:指導で症状が変わらなければ受診 3:早期に受診)した結果Grade1以下が71%であった。(Grade 0:7名 1:33名 2:13名 3:3名) 指導内容はストレッチ50、筋力トレーニング8、マッサージ6であった。
【考察】参加選手の症状は慢性化したものが圧倒的に多く、医師の診察ではGrade1以下が約70%を占めたことから、選手の多くは自己コンディションの把握や日常ケアの充実により障害発生の予防が可能であると考えられ、こうした事業が障害予防の一助となることが示唆された。ストレッチ指導が多かった点は、全体を通じて練習・試合前後のウォーミングアップ・クーリングダウンは実施されているものの、競技特性への考慮が不十分であり質・量的な内容理解が乏しい状況であることが推察された。メディカルチェック後のアンケート結果から本事業の効果として、選手自身は自己管理の重要性に気づき、指導者サイドは日常的なケアについて見直す機転となり、県高野連にはメディカルチェックの必要性を認識していただいた。今後の課題として再現性の高いデータを取るための評価順序の妥当性、機能的な差異を検出するための評価項目の選択や客観性について検討する必要がある。この活動が高校野球選手の障害予防に直結するとともに、我々の新たなサポート活動の指針となるように今後も継続していきたい。