抄録
【はじめに】
膝前十字靱帯(以下ACL)再建術後、運動強度の増加やスポーツ復帰の指標としては、再建術からの時期、筋力、関節可動域が主体となっている印象がある。しかし、再受傷予防のためには、それらに加えて症例の身体機能全体の評価を行い再受傷の危険因子を把握し、改善することが重要であると考えられる。そこで当院では、2005年より評価項目の検討を始め、2006年より実際に評価を開始した。今回、現在当院で実施している動作評価の紹介ならびに利点と課題、さらに評価を実施した症例数例の評価結果を報告する。
【動作評価項目・方法】
評価で用いている課題動作は、スクワット動作、片脚立位、藤井らの報告する動的Trendelenburgテスト(以下、動的T)、一側下肢を一歩出した状態から踏み込む前方踏み込み動作である。これらの動作を骨盤位に特に注目して評価している。スクワット動作では、骨盤が後傾することなく床面と大腿が水平までスクワット可能な場合を陰性として判断している。片脚立位では、遊脚側骨盤の下制(Trendelenburg徴候、以下、T徴候)の有無を評価し、T徴候がない場合を陰性として判断している。動的Tは片脚立位から支持側膝を軽度屈曲した際に遊脚側骨盤の下制の有無を評価し、著明な骨盤の下制がない場合を陰性として判断している。前方踏み込み動作では、踏み出した側の著明な骨盤の挙上がないかを評価し、著明な骨盤の変位がなく動作を遂行可能な場合を陰性として判断している。
【対象】
当院にてACL再建術を施行し、本評価を開始した2006年2月から2006年11月までに術後3ヶ月以上経過した症例のうち、本評価を実施できた8名を対象に動作評価結果を調査した。
【結果】
3ヶ月評価、6ヶ月評価の結果を記す。調査期間において3ヶ月評価は6名に、6ヶ月評価は4名に実施可能であった。3ヶ月評価において、スクワット動作陰性は4名、T徴候陰性は5名、動的T陰性は0名、前方踏み込み動作陰性は1名であった。6ヶ月評価において、スクワット動作陰性は3名、T徴候陰性は3名、動的T陰性は1名、前方踏み込み動作陰性は3名であった。
【考察】
動作評価を開始してからの利点は、動作における身体機能の問題や危険因子を把握しやすくなり、症例に対して現在の状態を説明しやすくなった点が挙げられる。症例に対する調査結果では、動的Tは6ヶ月時点でも陰性は1例だけであり、当院で評価している課題動作のうち、動的Tが最も難易度が高い動作であることがわかった。同時に6ヶ月時点でもスポーツ復帰に十分な機能を有していない場合が多いことが示唆された。しかし、評価で用いている課題動作の力学的特性は明らかでないことや、動作評価の結果が再受傷率に影響を及ぼすかは明らかでないことから、今後これらの検討を行い、指標の確立に努めていきたい。