抄録
【はじめに】臨床上サッカーによる膝伸展機構の障害は数多くみられる。先行研究に関してもOsgood-Schlatter病、ジャンパー膝などの膝伸展機構の障害と動的アライメントを結びつけた研究は多々あるが、多くは矢状面上の研究がほとんどである。今回我々はキック動作を前額面と矢状面の両側面から確認した。
【対象】本研究の趣旨を説明し、同意を得た、膝伸展機構障害を呈する者10名と下肢に疾患の無い者9名とした。
【方法】60~70%のインステップキック動作をデジタルビデオで撮影した。検査時に痛みが生じている者はみられなかった。前額面上の動的アライメントとして肩峰、上前腸骨棘、パテラ中央、内外果中央の左右にマーカーを貼付し正面より撮影した。また矢状面上の動的アライメントとして肩峰、Th7、大転子、大腿骨外側上顆、腓骨外果、第5中足骨頭にマーカーを貼付し軸足側より撮影した。画像解析には2次元解析(アニマ社製)を行なった。キック動作をHeel Contact(HC)、Ball Impact(BI)、Toe Off(TO)の3つの時期に分け、TOがみられなかった被検者に関してはスイング足が一番上がった時期をTOとした。前額面上の動的アライメントとしては、HC、BI、TO時の軸足の膝関節外反角度、また外反角度の変化量を確認した。矢状面上の動的アライメントは重心位置を求めHC、BI、TO時の腓骨外果からの距離と各角度を算出した。またその他の因子の影響を確認するため、静的アライメントとしてQ-angle、アーチ高率、大腿骨内側上顆間距離を測定し、柔軟性として踵殿間距離、SLR、しゃがみこみを測定し、関節可動域として、股関節内外旋角度、足関節背屈角度を測定した。検討項目は、1 静的アライメント、柔軟性、関節可動域の比較、2 軸足膝関節外反角度と角度変化量の比較、3 腓骨外果を原点とした重心位置、1~3を障害有り群と、障害無し群とで比較をした。統計処理にはt検定を用い、危険率5%未満を有意差有りとした。
【結果】静的アライメント、柔軟性、関節可動域は両群間に有意差はみられなかった。前額面上の動的アライメントではHC、BI、TOの3つの時期の軸足膝関節外反角度の変化量は膝伸展機構障害有り群がHCからBIにかけての外反角度変化量がより多くみられた(p<0.05)。矢状面上の動的アライメントに関してはTOの時期に障害有り群がより後方重心であった(p<0.05)。
【考察】静的アライメント、柔軟性、関節可動域では両群で有意差はみられなかったことから動的アライメントの重要性が考えられる。軸足膝関節外反角度変化量が多くみられたことにより、膝蓋腱へのストレスが大きくなる。後方重心になることにより、膝伸展モーメントが大きくなる。これらがみられることが膝伸展機構の障害の一要因になると考えられる。