抄録
【はじめに】
スポーツ分野で活躍しているトップアスリートでは、運動イメージを活用したトレーニングを多く取り入れており、近年その重要性がクローズアップされてきた。運動イメージが正確に行えるスポーツ選手ほど、競技レベルが高いことが報告されているが、その反対、つまり運動イメージの想起が困難な者を対象にした報告は数少ない。成長期にあるスポーツ選手では、急激に変化する身体の成長にボディイメージが伴っていない可能性がある。さらに成長期のスポーツ選手は、外傷や障害が問題になる場合が多く、これらを予防することは子供の将来性を考える上で非常に重要である。そこで本研究では、8方向のステップ動作の運動イメージが成長過程でどのように変化するのかを横断的に調査した。
【方法】
対象は、小学1年生~中学3年生の男子サッカー選手36名(年齢;11.7±2.2歳)とした。8方向のステップ動作を運動イメージ、実際に動作遂行し、それぞれの値を測定した。8方向は、正面を(1)の方向とし、時計回り45度刻みに(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)の方向とした。実際に一歩を出す前に、最大一歩(左右の母趾から母趾の距離)を閉眼立位にてイメージする。イメージした距離を両手の示指で示してもらい、その距離を計測する。その後、実際に最大一歩を行ってもらい計測した。実測値を「1」とした場合のイメージの比を算出し、その値と年齢との関係をSpearmanの相関係数によって検討した。
【結果】
実測値とイメージの比は(1)で0.85±0.20、(2)で0.78±0.20、(3)で0.82±0.22、(4)で0.73±0.16、(5)で0.83±0.22、(6)で0.77±0.20、(7)で0.85±0.25、(8)で0.78±0.17であった。実測値とイメージの比と年齢とで有意な相関関係を認めた方向は、(5);r=0.46、(6);r=0.51、(7);r=0.44、(8);r=0.47であった。
【考察】
ステップ動作の運動イメージの正確性は成長に増しており、特に後方および下肢を交差させる動作では顕著であった。このような動作は、サッカーのようなスポーツにおいて、ドリブルで相手をかわす時、走行中に方向転換をする時などで頻繁に用いられる動作であり、このような動作の際に、足関節捻挫や膝前十字靭帯損傷などを誘発する可能性があると考えられる。本結果より成長が未熟な少年サッカー選手では、イメージした動きと実際の動きが一致していない可能性が示唆されており、障害発生の危険性が高くなっていることが推測される。このようなことから、成長期のスポーツ選手に対しては障害予防の観点から運動イメージトレーニングが必要と思われる。
【まとめ】
成長期のサッカー選手では、外傷発生リスクの高い動作の運動イメージの正確性が低下していた。