抄録
【はじめに】
封入体筋炎は多発性筋炎や皮膚筋炎と区分される原因不明の炎症性筋疾患で、その治療法は確立されていない。筋炎の増悪を避けるため積極的な運動は控えるのが原則であるが、至適運動強度や活動量の指標は明らかにされていない。本報告では、封入体筋炎患者の転倒予防に対し、CPK値と体組成を確認しながら運動療法の強度や量の調整を行ってきた経過から、これらが筋炎の状態を管理した運動の指標として用いられるか考察した。
【症例】
71歳、男性、BMI 23.2。平成15年4月、下り坂で激しく転倒し、その後段差で転倒・膝折れすることが多くなった。平成17年9月、他病院にて確定診断を受け、主治医の説明により積極的な運動は控えていたが、体力・筋力低下により日常生活に支障をきたすようになり、12月に本人のリハビリ希望で当院を受診した。
【検査方法】
本人の同意の上、運動前(以下pre)・運動直後(以下post(1))・翌日(以下post(2))に採血した。体組成は生体電気インピーダンス方式体組成計Physion XP(株式会社フィジオン製)で測定した。
【プログラムの設定】
初期では、筋組織への負担を考慮し(1)有酸素運動(2)下肢等尺性収縮運動(姿勢保持)とした。以後、3ヶ月毎にCPK値・体組成(骨量・筋量)を検査し、種目・運動負荷を調整した。また生活における活動量は問診と指導により調整した。
【経過】
運動に関係なくCPK値は高値であった。CPK値(IU/L)は平成18年1月pre826→post(1)905→post(2)832、2月pre519→post(1)580→post(2)532、5月pre460→post(1)506→post(2)402、8月pre295→post(1)352→post(2)368であった。筋量の体重比率は平成18年1月32.5%、2月31.1%、5月29.1%、8月27.1%で、経時的に減少が認められた。膝折れや転倒の頻度は減少傾向だが、疲労感のある時は出現しやすい。しかし、歩行速度・安定性は改善したと周囲に評価されることもあり、「筋力がついてきた気がする」という発言もあった。
【考察】
本疾患のリスク管理で最も重要なのは、筋炎悪化による筋萎縮の進行であるが、患者のQOLを考えると、リスク管理のための指標を用いた運動療法の実施も同様に重要である。本報告でのCPK値と体組成を指標とした運動療法の経過においては、筋量の減少は認められたものの、歩行能力の主観的な改善傾向と趣味や社会活動の継続によるQOLの維持は獲得されている。しかし、生活全体の精確な活動量の評価や管理は困難であったため、病態の進行と運動療法自体の影響までには言及できなかった。今後も主治医と相談しながら、可能な限りQOLを維持できるようなリハビリと生活での活動量の管理を行い、適切な運動の指標を見出せるよう関わっていく。