抄録
【背景と目的】変形性股関節症(以下股関節症)のリハビリテーションにおいて、関節変形の進行を遅らせ日常動作を容易におくるための筋力・関節可動域訓練は非常に重要である。しかし、運動療法の際に疼痛により動作が制限され、難渋することが臨床上経験される。疼痛軽減の報告は多くされているが、筋力や関節可動域の改善に直接結び付くものは見られない。今回我々は股関節症患者に対し、臨床上しばしば用いられる弾性包帯による関節固定の効果に着目し、膝関節から骨盤まで弾性包帯でwrappingを行った。その結果簡便に動作上の安定と動作時痛の軽減効果を認めたため、その効果をwrapping前後で比較検討した。
【対象と方法】対象は当院にて股関節症と診断されリハビリテーションを開始した女性18名21関節(平均51.3歳)である。日本整形外科学会のJOA scoreにて、平均50.6点であった。wrappingの方法は膝関節から骨盤まで弾性包帯にてwrappingした。測定項目は、(1)active hip flexion range、(2)stand up & go test、(3)10m歩行(10m×10連続歩行:歩行時間、ステップ数)、(4)等尺性膝伸展筋力とした。膝伸展筋力はHand-held Dynamometer(micro FET)を用い測定した。また(5)10m歩行のwrapping前後での疼痛・動きやすさ・安定感の変化をVisual Analogue Scale(以下VAS)を用い調査した。統計にはPaired t-testを用い、危険率を5%未満とした。
【結果】wrapping前後での測定結果は(1)で75.2度から72.1度(P<0.001)、(2)で14.6秒から13.3秒(P<0.001)、(3)の歩行時間は10.2秒から9.3秒(P<0.001)、ステップ数は19.9歩から18.8歩(P<0.001)でwrapping後で有意に低値を示した。また(4)は205.5Nから235.3N(P<0.01)に有意に高値を示した。(5)にて対象者の67%で疼痛が改善され、61%で動きやすさが改善され、89%で安定感の改善があるとの回答を得た。
【考察】我々は予備実験として、健常者にwrapping前後で5回連続、片脚hopの跳躍距離を測定し、運動歴が少ない者の跳躍距離が向上する傾向を認めた。その効果は明らかではないが、予備実験の結果から動作能力での向上が確認できた。股関節症患者でも、wrapping後にて10m歩行時間短縮など動作能力での向上が認められ、さらに機能面で膝伸展筋力にも向上が認められた。これらは弾性包帯によるwrappingの圧迫により、触圧覚が刺激され筋緊張が低下し筋出力がしやすい状況をもたらしたと考えられる。また、VASの結果や測定時に安心感がある、といった言葉が聞かれたことは、疼痛軽減や関節安定性向上といった運動機能の変化により心理面の肯定的な回答が導かれたものと考えられる。wrappingという簡便で侵害刺激の少ない方法により徐痛効果が期待でき、運動機能や動作能力が向上する結果、運動療法を効果的に行うことができると考えられた。