抄録
【目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)に対する足底挿板療法において、外側ウェッジ(以下LW)と内側アーチサポート(以下AS)を組み合わせて処方し、有用性がみられたとの報告がある。本研究の目的は、2種類の足底挿板(LW、LW+AS )が歩行に及ぼす影響を検討することである。
【対象および方法】
対象は20歳代の健常男性1名。測定条件は、足底挿板非装着、LW(最大厚部が8mm)装着、LW+AS(最大厚部7mm)装着の3条件とし、測定機器はOxford Metrics社製VICON460とAMTI社製床反力計を同期させ、歩行解析ソフト(DIFFGAIT)により1歩行周期の股関節外転モーメントと足関節底屈モーメントを算出した。また、立脚時間の測定と股関節部、膝関節部、足関節部の各マーカーを結ぶ線のなす角度(以下大腿下腿角度)を求めた。股関節外転モーメントでは立脚期中の2峰性の波形から2つのピーク値(p1、p2)を求め、3条件下で比較した。各足底挿板は右足にのみ装着させ、自然なスピードで歩行してもらい、3回の平均値で比較した。
【結果】
LWでは、非装着と比較し股関節外転モーメントのp1が15.5%減少、p2は16.2%減少した。大腿下腿角度においては非装着に対し立脚初期より変異がみられ、平均で1.32°、最大で2.25°外反方向への変異を示した。LW+ASでは、股関節外転モーメントは非装着とほぼ同様の結果となった。大腿下腿角度においては立脚中期以降、変異を示し平均で1.05°、最大で1.83°外反方向への変異を示した。また立脚時間をそれぞれ比較すると非装着では0.60秒、LWでは0.61秒、LW+ASでは0.72秒であり、LW+ASで立脚時間の延長がみられた。
【考察およびまとめ】
LWではp1、p2の減少と立脚期中の大腿下腿角度において内反抑制がみられた。一方でLWにASを組み合わせたことにより、LW装着時にみられたp1、p2の減少が消失し、また大腿下腿角度も立脚初期において非装着と近似した角度を示した。これらのことより、ASを組み合わせることで立脚初期の変化としては、LWの効果を干渉する可能性が示唆される。しかし、立脚中期以降の大腿下腿角度はLW以上の内反抑制を示した。また足関節底屈モーメントピーク値はLW+ASで最も高い値を示した。このことから、ASにより前方への推進力が向上し、立脚時間の延長をもたらしたと考える。立脚中期以降、林らの報告にもあるようにASの作用によって足内在筋が優位に働いたと推察する。
本研究を通して、LWの効果としては、下肢全体の内反抑制が立脚初期から働き、アライメント矯正には効果的であるが、ASを併用することで、足部の安定性の向上と立脚期全域での内反抑制効果が得られ、膝OAに対する足底挿板療法としてより効果を発揮することが期待される。