抄録
【目的】荷重に伴う足部の機能的変形は、衝撃の緩衝ならびに効率よい歩行を遂行する上で重要であり、後足部から前足部に至る力学的運動連鎖として認識されている。有痛性足部疾患においては、この機能的変形の破綻様式を評価する事が治療に直結するため、理学所見、荷重位X線所見、フットプリント、歩行観察などを総合的に考察する事が大切である。本研究の目的は、荷重位X線の背底像で得られる前足部の所見は、側面像で得られる内側縦アーチ所見と関連があるか否か検討し、足底挿板作成する上での情報として、荷重位X線所見の位置づけについて言及する事である。
【方法】有痛性足部疾患にて当院を受診し、診断目的で荷重位X線が撮影された125名202足を対象とした。平均年齢は41.1±20.9歳、性別は男性36例、女性89例であった。荷重位X線の背底像からは外反母趾角(以下HVA)、M1M2角、M1M5角について、側面像からは横倉法に順じT・R・C・N・Lの各値、距骨第1中足骨角(以下TMA)について計測し、各々についてPearsonの相関係数を求めた。
【結果】HVAは、M1M2角(r=0.736)、M1M5角(r=0.623)と有意な相関を認め、側面像から得られる各値とは関連がなかった。M1M2角はHVAおよびM1M5角(r=0.635)と有意な相関を認め、側面像ではL値(r=-0.376)のみ弱い相関を認めた。その他側面像の各値とは関連がなかった。M1M5角はHVA、M1M2角と有意な相関を認めたが、側面像の各値とは関連がなかった。TMAはT値(r=0.620)、R値(r=0.602)、C値(r=0.753)、N値(r=0.749)、L値(r=0.777)とは有意な相関を認めたが、背底像における各値とは関連がなかった。
【考察】荷重に伴う足部の機能的変形は、後足部の回内負荷が中足部でのアーチの低下、開張、趾尖方向への突出、前足部では母趾列の内転、回外、IV・V趾列での外転・回内により荷重の吸収、分散を効率的に行っている。足底挿板療法はその機能を改善させる手段の一つであり、荷重位X線撮影はアーチの客観的把握に有効とされている。今回の結果から、背底像により得られる足部の開張度と内側縦アーチの相関はなく、あくまで側面像と背底像は別々に検討を加える方が妥当と思われた。我々はBerkemann footprintを用いた評価にて、凹足所見以外の扁平足所見、後足部回内所見、中足骨頭部の圧積所見等は、荷重位X線における開張度や内側縦アーチ高との有意な関連がある事を報告している。荷重位X線の一撮影面から足部全体のアーチ構造を想像する事は難しく、足底挿板の作成にあたっては、X線からの客観的所見と、footprint特有の所見を統合しつつ、臨床理学所見との整合性を確認しながら作成する事が肝要である。