理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 198
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内部障害系理学療法
心臓外科手術後超早期からの呼吸機能の回復に体位が及ぼす影響
*田屋 雅信高橋 哲也熊丸 めぐみ宮澤 寛子西川 淳一設楽 達則櫻井 繁樹安達 仁金子 達夫大島 茂谷口 興一
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抄録

【はじめに】心臓外科手術後は,胸骨正中切開や心嚢ドレーン挿入などの手術侵襲による呼吸運動の制限や手術後ベッド上臥床に伴う機能的残気量の低下による呼吸機能の低下が生じ,無気肺や痰の貯留による呼吸器合併症を引き起こすことがある.そのため,手術後(人工呼吸器の抜管後)当日から翌日の時間帯で,ポジショニングを含めた呼吸理学療法を実施することが,呼吸器合併症を予防するために重要であるといわれている.本研究では,手術後超早期からの呼吸機能を体位別に測定し,手術前と比較することで,手術後超早期の呼吸機能の回復に体位が及ぼす影響を検討した.
【対象】対象は当院で心臓外科手術を受けた12例(平均年齢:63.9歳(45‐81),男性7例,女性5例)術式の内訳は冠動脈バイパス術4例,弁置換・形成術8例であった.対象の除外基準は,手術後の人工呼吸器の長期装着や脳血管障害の発症,病前からの呼吸器疾患患者とした.
【方法】呼吸機能の測定は,肺活量(slow vital capacity;SVC)と最大呼気流速(peak huff flow;PHF)を測定した.測定肢位は背臥位,ギャッチアップ60°(以下,ギャッチアップ),端座位とし,手術前,手術後1日目,3日目,5日目,7日目で測定した.ただし,手術後1日目は端座位まで離床が進まないケースを認めたので,背臥位とギャッチアップのみの測定とした.また,カルテより手術前の心不全状態の指標として手術前のNYHA分類,手術後の循環動態の指標としてカテコラミン投与量,酸素投与量,中心静脈圧(CVP)などを調査した.なお,対象者には手術前から本研究の趣旨やリスクなどを説明し同意を得た.
【結果】手術前は体位によるSVCの差はわずかであったが,手術後1日目は背臥位で手術前の41.6%,ギャッチアップで50.2%まで低下し,背臥位の方がSVC低下率が大きく,体位による差を認めた.7日目には背臥位で手術前の73.9%,ギャッチアップで76.1%,また端座位では75.6%までの回復を認め,体位による差は縮小した.PHFでは,手術前は背臥位に比べギャッチアップ,端座位の方が優位に高値を示したものの,手術後1日目は背臥位で手術前の59.7%,ギャッチアップで59.2%まで低下した.7日目には背臥位で92.6%,ギャッチアップで87.8%,端座位で93.9%となり,ほぼ手術前の値まで回復した.
【考察】手術後超早期の体位によるSVCの差は,術後心不全の遷延に起因する肺うっ血に加え,背臥位では静脈還流の増加により肺うっ血が増強し,肺コンプライアンスが低下したことが一つの要因と考えられた.手術後のPHFは体位による差を認めなかったが,手術直後の心嚢ドレーンや正中切開創の影響で,努力性に必要な呼気筋群の活動を十分に発揮できないなどの要因が影響したものと考えられた.

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© 2007 日本理学療法士協会
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