理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 445
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生活環境支援系理学療法
重度心身障害者に対する介助歩行の導入が介護者の負担の軽減につながった症例
Zarit介護負担尺度日本語版(短縮版)による事例検討
*土山 裕之
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キーワード: J-ZBI_8, 高次脳機能障害, 歩行
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抄録

【はじめに】自宅復帰を目指すにあたり、患者の心身機能のみならず家族の介護力が問題になる。そのため家族の介護負担の程度を入院時より客観的に把握しておくことは、非常に重要である。Zarit介護負担尺度は、介護によってもたらされる身体的・心理的負担、経済的困難などを総括し、介護負担として表したものである。今回、重度の認知症患者に対し、入院時の理学療法および退院時の環境面への働きかけが、妻の介護負担の軽減につながった症例を経験したので、この尺度の縮小版(J-ZBI_8)を用いて分析し報告する。
【症例紹介】症例は、78歳、男性。性格は、頑固な職人気質。家族構成は、7人家族で、キーパーソンである妻は、75歳。当初の家族の希望は、日中の移動を介助がいらないくらい良くなって欲しいとのこと。H17.11.12 脱水状態となり、左脳梗塞にて当院入院。
【理学療法開始時評価】理学療法開始時、ブルンストロームステージは、上下肢5。ROMは、足関節背屈 右 –15°、左– 30°。MMTは、 両上肢3-4、両下肢2-3。筋緊張は、右よりも左に強く全体的に亢進。基本動作は、背筋が優位で寝返り、起き上がりは、不可能。 端坐位では、PUSHER現象が見られ、保持は不可能。ADLは、食事のみ一部介助でその他は、ほぼ全介助の状態。また、高次脳機能については、記憶・注意障害がみられHDS-Rは、8点であった。
【妻の介護負担尺度の変化】J-ZBI_8は、荒井らによって開発されたもので8項目ある。そのうちパーソナルストレイン(PS)である5項目(20点満点)とロールストレイン(RS)である3項目(12点満点)に分け、入退院時の変化をみた。理学療法2ヶ月時は、PS10点RS3点、退院直前は、PS9点RS1点、退院直後は、PS14点RS6点、退院2ヶ月の時点では、PS2点RS3点、退院3、6ヶ月共にPS0点RS1点であった。
【歩行量の変化】理学療法2ヶ月の時点で妻や看護師に介入してもらい、歩行練習を行っていった。この頃より歩行量は、右肩上がりで増えていった。
【退院後の住宅改修】退院時、四つ這いを移動手段とした住宅改修を行った。退院2ヶ月の時点で、歩行能力の向上に伴い本人が独歩するようになった。そのため出来るだけ転倒を回避できるように再度住宅改修を行った。
【考察】入院中は、RSに比べPSで高く、介護に否定的であることが感じられる。退院直前、妻の歩行面への介入や歩行量の増加が、PS、RS共に減少した要因と考えられる。また、退院直後に介護負担度が急増したのは、歩行時の転倒に対する不安が要因と思われる。退院2ヶ月の時点で、特にPSが極端に減少したのは、歩行時の転倒を回避できる住環境の改善が大きいと考えられる。今回、重度認知症患者に対して歩行能力を活かす住環境の整備により家族の介護負担の軽減につながることをJ-ZBI_8により確認できた。

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© 2007 日本理学療法士協会
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