抄録
【目的】温熱療法および寒冷療法はγ遠心性繊維の活動を抑制して, 筋紡錘の感受性を低下させ, 筋緊張を低下させる. しかし, 温熱療法や寒冷療法による筋緊張の変化と協調運動への影響についての報告は少ない. 今回, 下肢への温浴ならびに冷浴の前後で, 足タッピング運動を行い, 温熱療法と寒冷療法の足底背屈協調運動に対する影響を検討したので報告する.
【方法】i 対象: 研究の主旨を説明し同意を得た神経疾患や骨関節疾患の既往のない健常成人10名(男性6名, 女性4名, 年齢28.5±7.3歳). ii 測定方法: 被験者は, 温熱療法として, 右下腿を40°Cの温水(15分間), あるいは寒冷療法として同様の部位を8°Cの冷水に浸し(1分間)安静を保持した. 温浴と冷浴のいずれを先に行うかはランダムに施行し, 足タッピングの測定の間隔は4時間以上空けた. 足タッピングの開始姿勢は40cm高の椅子に座位をとり, 底屈45°で床面接地とし, 最大底屈位からの開始とした. 底背屈自動運動20回によるタッピングの所要時間を計測した. 施行時に背屈はできるだけ速く最大可動域で運動するよう指示した. iii 統計処理: まず温熱および寒冷療法前後の所要時間を比較し, 次に温熱療法と寒冷療法間の変化を比較した. 検定には対応のあるt検定を用い危険率0.05以下を有意とした.
【結果】足タッピング所要時間は, 温浴後が有意に減少した(p<0.01)が. 冷浴後は増加傾向がみられた. 温浴と冷浴の比較では、温浴は冷浴に比べ足タッピング所要時間が有意に減少した.(p<0.01).
【考察】足タッピング所要時間は, 温浴後に有意に減少し, 冷浴後に増加傾向を示した. 足底背屈の協調運動が, 冷浴によって抑制され, 一般的に筋の緊張を低下させる温熱が, 協調性を改善させたことを示唆する結果となった. 協調性改善のメカニズムは, 1)γ遠心性繊維の活動性抑制が動筋と拮抗筋の切り替えを容易にし, 協調運動が改善した. 2) 温熱効果による筋膜や関節周囲軟部組織のコラーゲン繊維の一過性の柔軟化により関節可動性が改善し, 運動速度が向上した. 3)深部体温上昇による中枢神経系への促通効果. などの影響が推察される.
【まとめ】今回, 温熱および寒冷療法の即時的効果として報告したが, 今後, さらに経時的な効果を検証し、中枢神経疾患での検討を行っていく予定である.