抄録
【背景】
自転車エルゴメーターを用いた最大無酸素パワー(以下MAnP)の測定は広く行われているが、MAnPは高負荷でのパワー発揮能力を評価しているにすぎない。そのため、我々は実際のスポーツ動作の評価においてはより高速での評価が必要であると考え、低負荷でのパワー発揮能力の評価の重要性を報告した。
【目的】
一般的に用いられているPower Max VIIの無酸素パワーテスト(C法)と体重に対する相対負荷を用いた我々の測定方法(Y法)を比較し、MAnPの評価方法としてのY法の妥当性と低負荷のパワー発揮能力の評価における有用性について検討した。
【対象】
膝前十字靭帯再建術後6ヵ月の男子競技選手12名(年齢19.2歳、身長176.1cm、体重77.8kg)とした。
【方法】
MAnPの測定はC法、Y法共にPower Max VIIを使用し、3段階の測定負荷で10秒間の全力ペダリングを2分間の休憩を挟んで実施した。C法の低負荷は被験者の体重、中・高負荷は前測定負荷での回転数に応じて設定された。Y法は体重に対する相対負荷を使用し、低・中・高負荷の順に体重の5、7.5、12.5%とした。測定で得られたピークパワーとピーク回転数(P-rpm)より、MAnPと至適負荷(OL)を算出し、体重あたりのMAnP (MAnP/BW)、OL(OL/BW)を求めた。また各測定における体重あたりの負荷(%BW)とP-rpm について、C法とY法で比較した。
【結果】
MAnP/BWは C法14.6w/kg、Y法14.7 、OL/BWはC法12.9%BW 、Y法12.6 で、共にC法とY法の間で有意差はなかった。また各測定における%BWとP-rpmは、低負荷のC法5.6%BW、179.7rpm、Y法5.0、187.3、中負荷のC法8.9、152.2、Y法7.5、164.5、高負荷のC法12.4、118.6、Y法12.5、117.9で低・中負荷の%BW 、P-rpmにおいて、C法とY法の間で有意な差を認めた(p>0.01)。
【考察】
過去の報告を散見すると、男子競技選手のMAnP/BW は 11.0~17.0w/kg程度、OL/BW は12.0%以上であると報告されている。今回、Y法の測定において同程度の値をとり、C法との間に有意な差を認めなかったため、Y法がMAnPの評価方法として妥当であると考えた。次に低負荷のパワー発揮能力については、脚伸展筋力でえられるMAnPのみならず、低負荷におけるP-rpm自体の評価の必要性が報告されているが、明確な負荷設定はされていない。これに対して、我々は脚屈曲筋力と相関を認めた5%BWを低負荷のパワー発揮能力の評価指標とし、スプリントにおける疾走期と関係することを指摘している。このため、低負荷の設定を詳細に行ったY法はMAnPのみならず、低負荷のパワー発揮能力の評価を可能とする有用な測定方法であると考えた。