抄録
【目的】我々の先行研究では、下肢の周径や筋力、筋力の最大値までの到達時間には左右差はなく、下肢機能に一側優位性が認められないことを報告した。ただし、様々な立位での活動のなかには左右どちらかに偏る、例えば足踏み運動を一定時間行うと最初の位置から一方向に回転していることなどを経験する。このような偏りは、下肢機能の偏りによるものではなく上肢機能が影響している可能性もある。そこで今回、立位動作に上肢の運動が影響するのか否かを検討したので報告する。
【対象と方法】健常な成人女性17名(平均年齢19.6±1.2歳)を対象としたが、事前に研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を開始した。なお、対象とした被検者はすべて右利きであった。測定項目は、片足立ち保持時間、最速歩行時間と距離、足踏みテストの3項目とした。片足立ち保持時間の測定は、閉眼にて両上肢を体側に軽くつけた状態で左右を測定した。最速歩行時間と距離の測定は、一周20mのトラックを右回りと左回りに最速歩行を行わせ、一周の所要時間と一分間の歩行距離を測定した。足踏みテストは閉眼で行ったが、上肢の振りを自由に行わせた足踏み(手ふり有り)と、上肢をベルトで体幹へ固定した状態での足踏み(手ふり無し)をメトロノームに合わせて30秒間行わせた。評価は開始肢位の体幹矢状線を基線にして、足踏み施行後の左右踵部中央を結ぶ線の中点を通る垂線とのなす角度を移動回転角度として測定した。統計処理は、対応のあるt検定を用いて危険率5%で検定した。
【結果】右回り・左回りにおける最速歩行の一周所要時間(右回り:10.8±0.7sec、左回り10.3±0.7sec)、一分間の歩行距離(右回り:107.6±10.1m、左回り:110.9±8.0m)ともに有意差(p<0.01)が認められ、左回りの方が有意に一周所要時間が短く、一分間の歩行距離が長かった。また足踏みテストは、手振り有り(23.5±16.0°)と手振り無し(32.0±16.0°)の間に有意差(p<0.01)が認められ、手振り有りの方が有意に移動回転角度が小さかった。一方、片足立ち保持時間には有意差は認められなかった。
【考察】今回、立位動作における上肢の影響について検討した。右回りと左回りにおける歩行時間と距離に有意差が認められたことは、上肢の動きを制限した片足立ち保持時間に左右差が認められなかったことを考えると、下肢機能よりも上肢機能の影響を受けているのかもしれない。また足踏みテストにおいて、上肢の動きを制限することにより足部位置の逸脱が大きくなったことから、上肢の機能が下肢の運動調節に関与していることが示唆された。