理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 38
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理学療法基礎系
微小重力環境を利用した骨髄由来細胞の神経分化制御と治療効果
佐々木 輝呉 樹亮吉元 玲子真鍋 朋誉井川 英明小川 和幸松本 昌也武田 正明河原 裕美弓削 類
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抄録

【目的】近年,骨髄中の未分化な細胞が神経細胞に分化することが報告され,中枢神経系疾患の再生医療への応用が期待されている.幹細胞を臨床応用するためには,未分化性を維持したまま培養する技術が重要である.重力分散型模擬微小重力発生装置(3D-clinostat)を用いた先行研究で,微小重力環境下では細胞の分化が抑制されることが報告されている.我々は,微小重力環境下でマウス骨髄由来細胞の神経分化が抑制されるかを分子生物学的手法を用いて解析し,微小重力環境下で培養した細胞をマウス脳挫傷モデルに移植し,効果の検討を行った.

【方法】骨髄細胞は,8週齢C57BL/6マウスの大腿骨と脛骨から採取した.増殖用培地は,基礎培地に10 % FBS,抗生剤を添加して使用した.神経分化誘導は,神経成長因子等の液性因子を用いて行った.実験群は,分化誘導を1G環境下で行う群(1G群),3D-clinostatを用いた微小重力環境下で行う群(CL群),微小重力環境下で分化誘導を行い1G環境に戻して分化誘導を継続する群(CL/1G群)とした.この3群に対し,未分化マーカー(Oct-4)や分化マーカー(Neurofilament,MAP2)の発現を蛍光免疫染色,RT-PCR法にて解析した.さらに,3群の細胞の移植効果を検討するため,液体窒素で冷却した金属をマウス脳の運動野領域に接触させ,マウス脳挫傷モデルを作製した.GFPでラベルした3群の細胞をマウス脳挫傷モデルに静注し,運動機能検査,組織化学的解析により修復効果を検討した.

【結果】CL群では,細胞形態の変化が観察されず,未分化マーカーが強く発現し,分化マーカーの発現はなかった.CL/1G群では,1G群と同様に細胞突起の伸長が観察され,分化マーカーが強く発現した.細胞移植から3週間後,静注した細胞は脳の損傷領域で同定され,CL群の細胞を移植したマウスの運動機能は他と比較して有意に回復した.

【考察】これまで微小重力環境下での神経分化について検討した研究はみられず,報告されている他の細胞への分化と同様,神経分化の抑制が示されたことは意義深いと考える.また,移植効果がみられたことは,微小重力環境下で培養した細胞が,生体内においても幹細胞としての能力を発揮したことを示唆している.3D-clinostatは,サイトカインなどの生化学的な刺激を用いず,細胞の未分化性を維持でき,移植効果を期待できることから,将来の再生医療に重要な役割を果たすと考えられる.今後は再生医療におけるリハビリテーションの確立のため,移植後の理学療法の介入効果についても検討したい.

【まとめ】本研究により,微小重力環境では骨髄由来細胞の未分化性維持ができ,細胞治療へ応用され得ることが示唆された.

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© 2008 日本理学療法士協会
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