抄録
【背景・目的】骨髄の中には間葉系幹細胞が存在し、様々な組織へ分化することが知られているがその数は非常に少ない。 しかし、これと類似した細胞が脂肪組織中に多量にみつかり、筋・骨・脂肪細胞などの間葉系細胞へと分化することがわかり脂肪組織由来の間葉系幹細胞(ADSCs)と呼ばれるようになった。 特に、このADSCsが移植免疫寛容性を示すことから再生医療への応用が期待されている。 しかし、脂肪組織には多くの細胞種が含まれ、ここからADSCsを分離するのはむずかしい。 一方、胚性幹(ES)細胞は多分化能を持つ。また、このES細胞を脂肪細胞へと分化誘導する系が知られている。 そこで本研究の目的は、ES細胞から脂肪細胞を分化させる系の途中で出現するであろうADSCsを同定することと、選択的に多量に分離、収集する新たな方法を開発することである。
【方法】ADSCsは細胞特異表面抗原CD105を発現することが知られている。 そこで本研究ではまずES細胞から脂肪細胞への分化過程でCD105を指標としてADSCsが形成されるか否かについて検討した。ES細胞にレチノイン酸(RA)とインシュリン/T3を用いて脂肪細胞への分化誘導をかけた。 この誘導過程で免疫組織化学的にCD105陽性細胞を検索した。 さらに、生体染色したCD105陽性細胞を追跡し、脂肪細胞へ分化するか否かについて検討した。 CD105陽性細胞をマグネティックセルソーティング法(MACS)により分離し、脂肪・骨細胞へと分化誘導した。 脂肪・骨細胞の形成はそれぞれ、オイルレッドオー染色、アリザリンレッド染色、さらにRT-PCR法によりPPAR-γ,LPL, Runx2, OsterixのmRNAの発現を指標とした。
【結果・考察】ES細胞を脂肪細胞へ分化誘導をかけたところES細胞の中にCD105を発現している二種類の細胞が認められた。 まず小型球形の陽性細胞が先に出現し、次いで細長い血管様の細胞が出現した。 生体染色によりこれらを追跡したところ、小型球形細胞が脂肪細胞へと分化していくことが確認できた。 さらに、MACS法によって収集した小型球形細胞が脂肪細胞や骨細胞に分化誘導できたので、これがADSCsである可能性が極めて高いと考えた。 現在はCD105陽性の間葉系幹細胞を効率よく骨・脂肪細胞へと分化誘導する方法の確立に努めている。
【まとめ】脂肪組織由来の間葉系幹細胞を得るために、ES細胞を脂肪細胞へと分化誘導した。 この過程でCD105陽性の細胞が出現し、その細胞は脂肪・骨細胞といった間葉系細胞への分化能力を示した。今後、骨格筋・軟骨細胞への分化誘導も行い、最終的に生体への移植を目指す。この方法が確立できれば、ES細胞から分化したADSCsの再生医療への応用が期待できる。