抄録
【背景】血液透析(透析)患者には筋力低下、心機能低下、貧血などによる身体機能や運動耐容能の低下が生じ易く、それらは日常生活活動(ADL)を妨げQuality of Life(QOL)を著しく損なうことにつながる。しかし、透析患者に運動療法を実施している施設は少ない。これは明確なガイドラインがないことが一因とされている。運動療法のエビデンスとなりうるこれまでの研究成果を文献的に調査、検討し、透析患者の身体機能向上、QOL改善のための普及の一助とすることは有用であると考え、本研究を実施した。
【方法】英語文献をMedlineにて、hemodialysis, exercise, physical therapy, physiotherapy, training, gait, ADL, QOLの語を用いて1966年以降の論文を、日本語文献については医学中央雑誌にて血液透析、運動、理学療法、ADL、QOLの語を用いて1983年以降の論文を検索、その中から透析患者に対する運動療法に関する原著論文を抽出した。さらに研究デザイン、対象、介入方法、アウトカムなどをレビューした上で検討し考察を加えた。本研究は2007年度大阪透析研究会コメディカルスタッフ研究助成を受け実施した。
【結果】英文111編、和文28編の文献を調査した。対象は何れの文献でも重篤な合併症がなく歩行自立の透析患者で、文献別の年齢幅は36±3から64.4±11.3歳であった。運動療法群のサンプルサイズは不明であった1編を除き6~69人であった。運動療法の内容は有酸素運動や筋力増強運動であった。
身体機能に関して、1)非比較対照試験6編、2)非無作為比較対照試験2編、3)無作為化比較試験(RCT)2編を調査した。筋力トレーニングによる有意な筋力増強が1)5編、2)1編、3)1編で、動作能力、最大歩行速度の改善が1)、2)各1編で報告された。運動耐容能に関して1)6編、2)5編、3)10編を調査した。代表的な指標である最高酸素摂取量はそれぞれ4編、4編、8編で改善あり、2)、3)各1編で改善なしと報告された。うつや健康関連QOLのスコアも1)1編、2)3編、3)5編で改善あり、2)、3)各1編で改善なしと報告された。その他、透析効率や筋蛋白代謝の改善が報告されていた。
【考察】調査したほとんどの文献において身体機能、運動耐容能、QOLスコアの改善などの効果が報告されていた。Painter、Cheemaも運動療法の有効性に関して多くの報告があると述べているが、RCTの不足を指摘している。今後の課題として、大規模なRCT、著明に身体機能が低下した透析患者に対する効果の研究、患者の高齢化に向けた取り組みなど、科学的根拠に基づいた運動指針作成のために、近未来にさらなる調査・研究が不可欠であると考えられた。