抄録
【目的】赤木らは,肘関節の等尺性最大随意収縮(以下MVC)における屈曲トルクと上腕二頭筋筋厚(以下筋厚)および上腕周径囲(以下周径)との間に高い相関があることを報告している。一方、筋疲労により発生する関節トルクが減少することは知られているが,その際の筋厚および上腕周径の変化について述べられた報告は少ない。そこで今回、MVCを持続した時の筋疲労による肘屈曲トルクの減少と上腕二頭筋の筋厚および上腕周径の変化の関連について検討を行った。
【方法】対象は、実験の趣旨に同意の得られた健常成人18名(男性13名、女性5名)で、年齢は24.1±6.4であった。研究内容についての説明を行い同意書に署名を得た後、年齢、身長、体重、体脂肪率等の基礎データを聞き取りおよび測定した。測定肢位は足底非接地の端座位で、体幹および股関節部をベルトで椅子に固定し、非利き手を肩関節・肘関節90度、前腕回外位、手関節中間位で専用トルクメータに固定した。なお、対側上肢は膝上に置き、手指は伸展位とした。筋電信号導出のため充分な皮膚処理の後、電極を上腕二頭筋筋長の近位1/3に電極間距離2cmにて貼付した。被験者には肘関節屈曲をMVCで行わせ、屈曲トルクをモニタリングさせながら可能な限り持続させるよう指示した。終了基準は屈曲トルクが最大値より40%減少した時点とした。安静時、屈曲トルク最大時と疲労時について、上腕最大周径をメジャーにて測定、筋厚を上腕二頭筋筋長の遠位2/3の位置で超音波診断装置(SSD-900、ALOKA)を用い測定した。得られたデータを先行研究のパラメータに照らし合わせ屈曲トルクと筋厚および周径との相関を求め、筋厚と周径については疲労による変化を求めた。なお、本研究の実施にあたっては長崎大学医学部保健学科倫理委員会の承認を得た。
【結果】肘屈曲トルクと筋厚、周径は屈曲トルク最大時に有意な高い相関(<0.0001)を示したが、安静時では相関が認められなかった。また、疲労時では肘屈曲トルクが40%減少しているにもかかわらず、屈曲トルク最大時に比べ筋厚と周径に著明な変化はみられなかった。
【考察】屈曲トルク最大時の屈曲トルクと筋厚、周径の間に有意な高い相関を示したことは先行研究を支持するものであった。筋収縮による筋厚の変化は、筋内膜などのコラーゲン組織が網の目状になり、伸張時でみられる平行な走行に比べ組織厚が大きくなっていること、等尺性収縮により筋束は短縮し羽状角は増大するといわれていることによって起こると考えられる。また、筋疲労に伴い筋収縮後の筋弛緩速度の遅延が起こることから、筋疲労時には筋厚、周径の著明な変化がみられなかったと考える。
【まとめ】先行研究をもとに,筋疲労による肘屈曲トルクの減少と上腕二頭筋の筋厚および上腕周径の変化の関連について検討を行った。疲労により肘屈曲トルクが減少したにもかかわらず、筋厚と周径に著明な変化はみられなかった。