抄録
【目的】人の立ち直り反応は視覚によるフィードバックに依存し、視覚障害者は視覚情報の欠如の代償として体性感覚や内耳前庭機能等を活用している。視覚情報を利用できない視覚障害者にとって、他の感覚器から得られる情報は健常者よりも重要である。本研究は健常者の視覚情報を遮断し、足底感覚情報をコントロールした状態での立ち直り反応を測定し、視覚障害者の立ち直り反応と比較することを目的とした。
【方法】対象は、健常成人男性22名(H群,平均年齢21.9歳)、視覚障害者の男性12名(B群,平均年齢34.5歳)とした。B群は週5日の通勤通学と週3時間の運動を行っている充分な日常活動量のある人とした。動作調整機能検査(Moter Control Test)はダイナミック平衡機能測定装置(Equitest、NeuroCom社)を用いて行った。検査実施時、足底感覚情報のコントロールには裸足と突起付シート(直径5mm、突起中心間距離10mm)を使用し、両群の視覚情報の遮断するためアイマスクを使用した。起立板の水平移動外乱刺激(前および後方)の測定データは、応答潜時[msec]と応答振幅[degree/sec]とした。応答潜時は起立板が水平移動してから立ち直りを開始するまでの時間、応答振幅は水平移動に対して立位を保つために被験者が出す力であり、応答波形の傾きで表した。起立板の前方または後方が落下する起立板傾斜外乱刺激では、身体動揺を抑える努力量が測定され、5回の反復計測により順応性を算出した。統計処理は統計ソフトSPSS Ver.14を用いて二元配置分散分析、多重比較検定(Dunnet検定)を行い、有意水準5%未満とした。本研究は首都大学東京倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】応答潜時ではH群よりB群のスコアが高い傾向にあった。後方移動の応答振幅はH 群に対しB群が有意に高く、足底感覚情報があるときのスコアが高かった(p<0.01)。起立板傾斜における身体動揺を抑える努力量は、障害の有無と足底感覚情報の有無の各2条件において有意差は見られなかったが、B群のスコアが低い傾向にあった。また、起立板傾斜における順応性では、障害の有無と足底感覚情報の有無に関わらず底屈では有意にスコアの低下が見られ、背屈では足底感覚情報なし時に有意差が見られた(p<0.01)。
【考察】水平移動外乱刺激において、H群に比べてB群は反応の遅延と立位保持のための下肢筋力が発揮され、努力性の高い立ち直り反応と考えられる。反対に、傾斜外乱刺激においてはH群の方が努力性の高い立ち直り反応傾向が見られた。視覚情報や足底情報をコントロール時では運動方向によって立ち直り反応に異なる傾向が見られることが示唆された。