抄録
【目的】
突発的な床移動(外乱)による慣性力に対する姿勢制御の研究はこれまでにも行われているが、予告の有無による比較検討を行っている研究は少ない。本研究では外乱に対する姿勢制御反応が予告の有無によってどのように変化するかを検討し、若干の知見を得たので報告する。
【方法】
健常男子学生14名(平均:年齢21.3歳、身長172.1cm、体重62.1kg)を対象とした。方法は、スライド式の床上に設置された重心動揺計上で被験者に立位姿勢をとらせ、予告ありでは外乱の5秒前より検者が指示し、予告なしでは検者の任意で外乱を加えた。姿勢制御反応は表面筋電計、三次元動作解析装置、重心動揺計を使用し測定した。両側前脛骨筋(TA)・下腿三頭筋(GA)・大腿四頭筋(RF)・大腿二頭筋(BF)・大腿筋膜張筋(TFL)・腹直筋(RAB)・脊柱起立筋(ESP)のpre-motor timeと%IEMG、股関節・足関節の角速度、重心動揺総軌跡長を測定し、比較の対象とした。測定は方向(前後)と予告の有無を組み合わせた4試行を各3回行った。統計学的解析は、対応のあるT検定により予告の有無、外乱方向の各項目について検討した。なお、有意水準は5%以下とした。
【結果】
前方への外乱に対して、予告ありでは%IEMGがTA、GAとRAB以外の筋群で減少し、特に左TFLが21.5%減少、GAが15.7%増加しそれぞれ有意差がみられた(p<0.05)。また予告ありでは外乱の3.07秒前から筋活動がみられ、pre-motor timeはTA以外の筋群が短縮し、特に両側ESPが8.25~20.87msec有意に小さかった(p<0.05)。角速度は股関節で6.6°/msec、足関節は12.6°/msec減少したが、総軌跡長は予告の有無による差は認められなかった。後方への外乱に対して、予告ありでは%IEMGがRAB以外の筋群で減少し、特にTFLが4.6~21.2%有意に減少した(p<0.05)。また外乱の2.46秒前から筋活動がみられ、pre-motor timeはTAとTFL以外の筋群で短縮し、特にRABが12.4~14.3msec有意に小さかった。角速度は股関節が4.3°/msec、足関節が19.7°/msec増加したが、総軌跡長では予告の有無による差は認められなかった。
【考察及びまとめ】
結果から予告の有無による重心動揺の変化は見られなかったが、%IEMGは予告ありでTA、GAとRAB以外の筋群で減少しており、より小さな筋活動で外乱に対する姿勢制御を効率的に行っているものと考えられた。またpre-motor timeや角速度より、予告ありは0.6秒程度予告なしより早い段階から外乱に対する準備姿勢に働き、姿勢の安定性を図っているものと考えられた。