抄録
【目的】
運動耐容能の定量的な評価指標として最高酸素摂取量(peakV(dot)O2)が用いられることが多い。しかしpeakV(dot)O2に最も関与している因子を検証した報告は見当たらない。
そこで今回、運動耐容能に対する運動中の局所筋酸素動態や筋力、筋持久力などの局所的な指標の関与の大きさを検討した。この研究は、運動耐容能の向上を目的として行う運動を選択するためのエビデンスを示し得るものである。
【対象及び方法】
対象は右下肢に整形外科的疾患の既往がなく、競技レベルでの運動習慣のない健常男性22名(運動習慣なし13名、週1回の運動習慣あり9名)で、平均年齢23.0±1.9歳、身長173.9±5.1cm、体重66.3±7.5kg、BMI 21.9±2.5、体脂肪率17.6±4.1%であった。被験者には本実験の主旨を十分に説明し、同意の下で協力を得た。
局所筋酸素動態測定には島津製作所製OM-220を使用し、プローブを右外側広筋に貼り付けた。評価指標には、[運動中のΔdeoxy-Hbの最大値/阻血中のΔdeoxy-Hbの最大値](脱酸素化率)を用いた。漸増負荷運動には自転車エルゴメーターを用い、同時にフクダ電子社製Oxycon Alphaにて呼気ガス分析をbreath-by-breath法にて行った。ペダル回転数が60回転を維持不能となった時点で運動終了とした。筋力測定にはOG技研製Hydro-Musculatorを使用した。右膝関節屈曲90度で3回の等尺性膝伸展運動を行わせ、最大値を採用し、体重で除した。筋持久力測定は、漸増負荷運動から3日以上の間隔を空けて行い、最大筋力の30%負荷にて膝完全伸展運動が連続可能な回数を筋持久力とした。統計処理にはSPSS 11.0J for Windowsを使用し、peakV(dot)O2を目的変数、対象者の身体的特徴や運動習慣、筋力、筋持久力、脱酸素化率を説明変数として重回帰分析をステップワイズ法にて行った。
【結果】
それぞれの測定値の平均はpeakV(dot)O242.0±7.9ml/min/kg、筋力1.03±0.17、筋持久力25.5±7.5回、脱酸素化率41.1±15.9%であった。重回帰分析の結果、脱酸素化率と筋力が説明変数として選択され、各説明変数の関与の大きさを表す標準偏回帰係数は脱酸素化率で0.495、筋力で0.383であった。
【考察及びまとめ】
peakV(dot)O2は運動筋を含む全身の酸素消費量を示している。一方、脱酸素化率は運動中の局所筋での酸素消費量を示していると考えられる。今回の結果、peakV(dot)O2に脱酸素化率が最も関与していた。今後、運動耐容能向上に効果的な運動プログラム作成へと繋げていきたい。