抄録
【目的】本研究は,健常女性と腹圧性尿失禁保有女性の骨盤底筋群機能を評価し比較・検討すること,骨盤底筋体操と筋電図バイオフィードバック療法を実施し理学療法介入効果を検討すること,腹圧性尿失禁保有女性のQOLを調査することを目的とした.
【対象と方法】本研究は名古屋大学医学部倫理委員会の承諾を得てから実施した.対象は,健常経産婦24名(平均年齢53±10歳,平均BMI 21.9±2.2 Kg/m2,平均出産回数2.2±0.6回),腹圧性尿失禁保有女性25名(平均年齢44±6歳,平均BMI 22.2±3.6 Kg/m2,平均出産回数2.0±0.7回)であった.方法は,全ての腹圧性尿失禁保有女性に対して初期評価を行ったのち無作為割付によって対照群,骨盤底筋体操群(以下体操群),骨盤底筋体操+筋電図バイオフィードバック療法群(以下BF群)の3群に分け,3ヶ月間の介入期間を経たのち最終評価を行った.評価内容は,膣圧測定(Cardio Design 社製 Peritron 使用),60分パッドテスト,尿失禁特異的QOL質問票であるKHQ質問を実施し,膣圧測定において健常経産婦との比較を行った.
【結果】初期評価の膣圧測定では,最大収縮圧で健常経産婦が35±18(cmH2O),尿失禁保有女性が24±10(cmH2O)と尿失禁保有女性の方が有意に低い値であったが,理学療法介入を経た最終評価では尿失禁保有女性が34±14(cmH2O)で健常経産婦との間に有意な差がなかった.最終評価において3群間の比較では対照群22±5.7(cmH2O),体操群35.7±9.9(cmH2O),BF群39.2±15.1(cmH2O)で,対照群に対して体操群およびBF群に有意な差を認めたが,体操群とBF群の間には有意な差はなかった.また初期評価と最終評価の比較では体操群およびBF群で有意な差があった.最終の60分パッドテストでは,すべての群において「尿失禁なし」100%の結果となった.KHQ質問票では全般的健康観を除くすべての項目で初期比べ最終でQOLの向上が認められた.
【考察】初期評価では健常経産婦と腹圧性尿失禁保有女性との間に骨盤底筋群機能の違いがあったが,理学療法介入後の腹圧性尿失禁保有女性では骨盤底筋群機能の向上とともに尿失禁症状およびQOLに著しい改善を認めた.今回体操群とBF群の間に効果の違いはなかったが腹圧性尿失禁に対する理学療法は,膀胱頸部・尿道を含めた骨盤内臓器の支持強化や骨盤底筋群の強化による尿道閉鎖圧の増強,腹圧上昇時に骨盤底筋群を随意的に収縮する方法の獲得に対して有効であることが示唆された.また理学療法の介入が,損なわれていたQOLを向上させることが明らかとなった.