抄録
【目的】近年,腹横筋の活動が脊椎の分節的安定性に関与しているという認識は一般的になってきている.しかし,その筋活動を明確に示す報告は少なく,腹横筋を活性化させる方法の検討も不十分であると考える.そこで今回,我々は側臥位において腹横筋を活性化させる方法を考案し,実際に超音波画像診断装置を用いて腹横筋ならびに内腹斜筋の筋厚を測定し,その筋活動を検討することを目的とした.
【方法】健常成人男性13名(年齢24.9±7.3歳,身長170.7±4.1cm,体重64.5±5.4kg)を対象とし,被験者の承諾を得て実施した.超音波画像診断装置(プローブは直線型8MHz)を用いて,右側腹部の画像を記録した.プローブ位置は,腋窩線より腹側で,臍レベル周径上とした. 測定肢位は左下側臥位で,両下肢を揃えて身体を直線状に配列し,両上肢は腹側に位置し,体幹部は中間位となるようにした.画像記録の際,右回旋負荷に抗して体幹中間位を保持する課題を設定した.課題中の注意点として,1)安静呼吸を維持すること,2)臍を背側へ近づけるように意識すること,3)上肢による支持を使用しないことの3点を指示した.右回旋の負荷は,骨盤帯後方から体幹部と垂直方向に加えた.課題は,プローブ位置を決定してから5秒後に開始し,10秒間実施した.記録された動画画像から課題開始前の安静吸気終末時の静止画像を安静時画像として,課題開始から5秒後の静止画像を収縮時画像として各々抽出した.画像解析ソフトImageJを用いて,同一定点上で安静時と収縮時の内腹斜筋,腹横筋の筋厚を1mm単位で測定し, 安静時と収縮時の差異を対応のあるt検定を用いて危険率1%で検討した.
【結果】測定結果を平均値±標準偏差で示す.腹横筋厚は安静時(9.0±1.8mm),収縮時(12.9±3.8mm)となり,増加率は42.1±18.9%であった.内腹斜筋厚は安静時(25.2±5.3mm),収縮時(27.4±6.0mm)となり,増加率は8.7±5.8%であった.腹横筋厚は収縮時において有意に増加した(p<0.01)のに対して,内腹斜筋厚は有意差を認めなかった.
【考察】今回の課題では右回旋負荷に抗した左回旋制御による体幹正中化が要求されている.筋厚の変化は筋活動を反映するとされていることから,このような課題中に腹横筋は活発に活動したにもかかわらず,内腹斜筋には同様の活動がみられなかったことになる.このような結果から,今回設定した側臥位肢位と回旋負荷の条件下では内腹斜筋より腹横筋の活動が優位となることが示唆される.腹横筋は体幹回旋時のトルク発生には関与しないとの報告もあるが,反対側への体幹回旋時に腹横筋は活発に活動するとの報告もあり,今回の我々の結果を支持している.
【まとめ】今回我々が考案した課題は,腹横筋を優位に収縮させ,筋活動を活性化させる可能性があることが示唆された.