抄録
【目的】
徒手筋力検査法(以下MMT)を学ぶ理学療法学科学生(以下学生)にとって、判定基準や測定方法を覚えることと同様に、実習を通して指導者である理学療法士(以下PT)の抵抗の加え方を模倣し、再現する練習をすることが重要である。しかし、少数の指導者が多数の学生に対し、正確かつ効率的に技術を伝達するのは容易なことではない。
そこで本研究では、その伝達の指標を作るために、臨床でMMTを頻繁に行うPTと学生との抵抗の加え方特性の違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
人の下肢を模擬した膝関節伸展運動再現装置(以下KES装置)を開発し、これを用いてPTと学生の抵抗の加え方を計測し、比較した。KES装置は、ばねの力によって健常な20代男性にMMTを行った時の平均的な最大膝関節伸展出力を常に再現することが可能である。本装置は、検査者が加えた力の量を計測する力センサを備えている。検査者は、PTと学生であり、PTはPT免許取得後に3年以上の臨床経験を有する男性16名(平均28.4±2.5歳、PT群)、学生はMMTの授業を終えた男性16名(平均20.7±3.1歳、学生群)である。すべての検査者は、KES装置を患者にみたてて膝関節伸展のMMTを5回ずつ行った。抵抗を加えたときの押し付け力は、50Hzのサンプリングレートで記録した。記録結果から、最大押し付け力、検査に要した時間を調べた。また、検査開始から単位時間あたりの押し付け力の増量が0.1秒間以上連続して50N/S以上となる最初の点までを検査の初動に要する期間として、この時間を調べた。
なお、本研究は本学倫理委員会の承認を受け、実施した。
【結果】
検査者が加えた最大押し付け力は、学生群の平均292±77N に対して、PT群は平均197±48Nで有意に小さかった(p<0.01)。検査時間は学生群の平均2.3±1.1秒に対して、PT群は平均4.3±1.1秒で有意に長かった(p<0.01)。また、検査初動期間は、学生群が平均0.28±0.19秒に対して、PT群は平均0.98±0.55秒であり有意に長かった(p<0.01)。なお、検査初動期間終了時の押付け力は、PT群で平均15±10N、学生群で平均5.0±2.5Nであった。
【考察】
本結果から、PTがMMT施行時に加える最大押し付け力と検査時間が明らかになり、学生と異なる事がわかった。また、PTは学生に比べ検査初動期間が長く、学生よりも大きな押し付け力まで緩やかに押し付け力を増加させていくことがわかった。今後、以上のようなPTの抵抗の加え方特性を、学生に伝えるための方法を検討していく予定である。
【まとめ】
MMT実施時に検査者が加える力について、PTと学生の押し付け力を記録し、比較した。その結果、両者の間に有意な違いがみられ、各々の特性が明らかとなった。