抄録
【目的】車いすは、小さな段差、溝、砂利道や整地していない路面では、前輪が細く小さいため進行を阻害される。また、狭い限られた空間での方向転換や急な坂道での移動も車いすの障害となる。そこで、これらの障害を乗り越えるのに、車いすの前輪を挙上し後輪のみで静止・移動するキャスター上げ(以下wheelie)技術は生活範囲の拡大に大いに有効である。今回、静止したwheelieを保持するときの車いすの変化を計測しその特徴を明らかにすることを目的とした。
【対象】対象は10秒以上静止したwheelieが保持可能で、上肢、バランスに影響を及ぼす医学的問題がない健常成人12名(男性11名、女性1名、年齢26.6±7.4歳、身長171.3±4.7cm、体重63.3±7.2kg)であった。被験者にはこの研究の目的、方法を十分説明し、同意を得た後に計測を行った。
【方法】まず被験者にデモンストレーションを交えた説明を行い、その後練習として実際に行ってもらった。測定時、体幹の影響をなくすため被験者の体幹は車いすのバックサポートにベルトにて固定した。テスト動作は、合図の後、素早く前輪を離陸させ安定したwheelieを維持するように指示した。マーカーは車いすの前後移動を記録するために車いすの左後輪車軸に1つ、車いす前部の上下移動を記録するために左フットサポートより上のレッグフレーム上に1つ配置した。これらの位置変化をアニマ社製三次元動作解析装置MA-8000を用い125Hzの周波数(データは250Hzに補完し使用)で8秒間記録した。計測開始は、wheelieの安定を目視にて確認した後とした。また、車いすは、スチール製の標準型を1台使用、共用とした。測定データは車いすキャスターの上昇、下降に影響する車軸の前後移動時の加速度(矢状面)、静止wheelieの安定性の指標としてレッグフレームのZ軸上の位置変化からwheelieの安定の指標として周波平均(1/3最大値+2/3最小値)を計算した値を使用した。そして、各平均データ間の相関と前後方向平均加速感の差の検定を行った。
【結果】前方向の平均加速度と後方向の平均加速度間に正の相関(p<0.01)を認め、周波平均と後方向の平均加速度間に正の相関(p<0.05)を認めた。しかし、前方向の平均加速度と後方向の平均加速度間には有意な差は認められなかった。これらより、安定したwheelie保持のために速い加速度を使用するケースは前方向、後方向ともに速い加速度を使用する傾向にあった。また、後方向のより速い加速度を利用してキャスター位置を修正するケースほど、より不安定なwheelie保持となる傾向にあった。
【考察】wheelieには後方への転倒の危険がある、キャスターが大きく上下に動揺する時はその危険も増す。よって今回、より不安定なwheelie保持をしていたケースほど、後方転倒を回避するために使用する後方への加速度をより速く利用したと考察する。