抄録
【目的】短下肢装具は患者の歩行補助目的で処方されるが、立ち上がりを始めとした他の動作の安定性にも寄与している。山本らによりGait Solution(以下GS)が開発され、近年新たに前方カフタイプのGait Solution Design(以下GSD)が開発された。今回その効果を立ち上がりという視点から三次元動作解析装置で計測したので報告する。
【方法】対象は当院入院中の左片麻痺患者(右被殼出血後260日経過)1名。身長150cm、体重45Kg、下肢Br.Stage4。著明な高次脳機能障害、整形外科的疾患は認めなかった。計測は床反力計(AMTI社製)4枚を使用し、後方2枚に設置した2つの40cm台上に端坐位をとり、前方2枚に足部を接地した。測定肢位は下腿を床に垂直、足幅を両肩峰幅、大腿長の中点を座面前端に一致、上肢を胸前で組むものとした。そして裸足時、GSD装着時、プラスチックGS装着時の立ち上がりを行い、三次元動作解析装置(VICON MX13、カメラ14台)にて計測した。マーカーは両側の肩峰・股関節・膝関節・足関節外果・第5中足骨頭に貼付し、床反力鉛直方向成分(以下Fz)・左右成分・前後成分、関節Moment(以下M)、関節Power、床反力作用点、身体重心(以下COG)軌跡・加速度を検出した。
【結果】被験者の主観としてGSDが最も立ち易かったと解答し、視覚的にも離殿後の伸展相において動揺が最も少なく、床反力の左右成分の変動も他と比べ少なかった。計測結果としては左右方向COG軌跡がGS・裸足で右に偏移した一方、GSDでは一時的に正中化した。また離殿時のCOG加速度としてGSDでは前方加速度の急激な減速と共に上方への加速度が生じたが、GSでは緩やかな変化に留まった。その背景として離殿直前にGSDでは左右同程度の遠心性股関節伸展Mがみられ、離殿後の左Fz平均値(161.0N)は裸足(73.7N)・GS(92.4N)と比べ最も大きかった。
【考察】上杉らによると安定した立ち上がり動作の獲得には左右均等な下肢への荷重が重要であるといわれている。今回非麻痺側依存的な立ち上がりを行っていた本症例がGSDを使用することにより麻痺側荷重能力が向上し、離殿後の左右方向の動揺は軽減した。両者の違いとしてGSが下腿後面から足部の全体を覆うのに対し、GSDは下腿前面にカフがあり前足部は接地しているという点がある。前方にカフがあることや前足部への感覚入力増加がCOGの前方移動に対する安心感を与え、さらにカフが後方で全面接触しないため背屈時の摩擦が少ないと思われる。これら荷重感覚増大と下腿前方移動円滑性向上が麻痺側への荷重量増大を招き、両股関節伸筋群を対称的に使用した結果、効率的に前方加速度の制動を上方加速度向上に変換することができたと考える。以上によるCOGの正中化は立ち上がりが安定したことを示している。よって本症例ではGSよりもGSDを使用することが立ち上がり安定性獲得という点では有益と考える。