抄録
【はじめに】
日常の臨床において脳卒中片麻痺患者に対し、階段や段差などの昇降動作再獲得を目的とした静的立位から前方への段差ステップ動作を治療課題として採用することは少なくない。この段差ステップ動作に必要な力学的要素を明らかにできれば、動作遂行障害の原因や治療プログラムの立案する上で重要な情報になると考え、床反力計・3次元動作解析装置を用いて分析を行った。
【対象者】
対象者は手すり・装具無しで階段昇降が可能な右片麻痺患者(症例A)、手すり・装具有りで階段昇降が可能な右片麻痺患者(症例B)の2名。症例A:下肢B/Sstage6。症例B:下肢B/Sstage4。
【計測・分析方法】
計測は3次元動作解析装置VICONMX13(Oxford Metrics社製・カメラ14台・サンプリング周波数100Hz)・床反力計4枚2×2列(AMTI社製)を用いて分析を行った。ステップに用いる段差は高さ16cm、幅30cmの台を使用した。対象者には手すりが無い状況で、両足部を揃えた位置から非麻痺側下肢を前方にある段差へステップしてもらった。分析は動作開始から非麻痺側が離床するまで(ST前期)、麻痺側の片脚立位(ST中期)、非麻痺側の接地以降(ST後期)の3相に分け、比較した。解析パラメーター:重心・床反力作用点(COP)の軌跡、床反力鉛直(Fz)・進行(Fy)成分、関節モーメント、関節パワー
【結果】
計測した結果、ST前期とST後期の重心の軌跡において両者に大きな違いが見られた。ST前期において、症例Bは症例Aよりも早期に前方・上方への重心移動が見られた。その背景として、麻痺側下肢の急速なCOPの前方移動があり後方への移動が見られなかった。足関節底背屈モーメントの活動も症例Bには見られていなかった(逆応答反応の欠如)。COPの後方移動が無いことから、足関節底屈筋の求心性収縮により重心を上方移動する活動がST中期前に見られた。麻痺側下肢のFy成分にも差があり、症例Bには後ろ向きの床反力が働いていなかった。これにより症例Bには制動力が働いていないことが示唆された(逆応答反応の欠如)。また、同時期に膝の過伸展も見られ、その後のST後期において非麻痺側への荷重が困難な状態となり、重心の上方位置での停滞が観察された。
【考察】
今回は、階段昇段動作の開始動作である段差へのステップを能力別に分析を行った。その結果から、症例BはST前期の逆応答反応の欠如により、足関節底屈筋の遠心性活動を伴った制動が困難な状況にあることが分かった。そのため、手すりなどの物的介助や下肢装具にて前方の体重移動を確保することにあると推測された。