抄録
【目的】前方ステップ動作は臨床場面で頻繁に用いられ、歩行不能な片麻痺患者に対しても行える簡易的動作である。本研究では、健常成人と片麻痺患者における前方ステップ動作の力学的特徴を詳細に分析し、両者の差異を明確にすることでステップ動作の評価、誘導方法に客観的視点を付加することを目的とする。
【対象】H19.7.17に脳梗塞を発症した68歳の男性右片麻痺患者1名と整形疾患の既往のない55歳の男性健常者1名。患者は著明な関節可動域制限、高次脳機能障害を認めず、Br.S 上下肢5、屋内T字杖歩行が監視レベルであった。
【方法】三次元動作解析システムVICON MX13(Oxford Metrics社製・カメラ14台・サンプリング周波数100Hz)と4枚の床反力計(AMTI社製MSA6)を使用し、マーカーを11箇所に貼付した。被験者を2枚の床反力計の上に立たせ、麻痺側下肢の前方ステップ動作を計測した。体重心に左右加速度が生じる点を動作開始点とし、遊脚側下肢接地までを解析の対象とした。計測項目は体重心(以下COG)、足圧中心(以下COP)、COG加速度、床反力、関節モーメント(以下M)を用いた。
【結果】健常者の体重心は前方へ大きく、支持脚側へ小さく移動した。また、COPは動作開始直後に右後方へ変移し、前方へ孤を描きながらCOG軌跡と交わり左側方へ、その後左前方へ移動した。一方、片麻痺患者の体重心は、健常者に比べて非麻痺側へ大きく移動し、前方への移動距離は短かった。また、COPは麻痺側後方へ変移せず、前方へ体重心を追うように蛇行しながら左前方へ移動した。COG進行加速度に関して、健常者では動作全般に渡り加速に働いていたが、片麻痺患者では健常者に比べて減速要素が強く、麻痺側接地直前に急激に加速作用に転じた。床反力に関して、動作開始直後から遊脚側の鉛直方向床反力が健常者で増大するのに対し、片麻痺患者では一貫して減少した。足関節モーメントに関して健常者では、動作開始後に遊脚側底屈モーメントが減少し、その後増大するのに対し、片麻痺患者では一貫して減少した。また、膝関節・股関節モーメントに関しては、明らかな違いを認めなかった。
【考察】健常者は、遊脚側足関節底屈モーメントの減少によるCOPの後方変移で動作を開始する。そして、これに同期して遊脚側下肢へ荷重しながら、同側の足関節底屈モーメントを増大させることで前方への推進力を形成していると考えられる。一方、片麻痺患者ではこれらの特徴がみられず、非麻痺側への荷重により動作を開始し、体幹を麻痺側下肢のカウンターウェイトとして用いることを前方ステップ動作の力源としていると考える。