抄録
【目的】脳に損傷を受けてからの機能回復のメカニズムにおいては、脳機能画像の発展にともない報告はされているが回復メカニズムの詳細は不明である。機能的MRIは脳内の活動に伴った血流変化をMRI信号として捉え、脳の活動を間接的に観察することが可能である。今回我々は手指対立運動課題を用いた機能的MRIを脳梗塞急性期患者に対して行い、運動関連領野における脳内活動について経時的な分析を行ったので報告する。
【方法】対象は、62歳 男性であり、今回の発症以外に脳病変を認めないラクナ梗塞患者である。課題は麻痺側での手指対立運動課題、非麻痺側手指での手指対立運動課題、安静をBlock paradigmを用い、発症4日目・8日目・13日目の3回にわたり実施した。撮像には、PHILIPS社製 Achieva3.0T MR装置を用い横断画像を撮像した(放射線技師による撮像)。データ解析にはSPMを使用した。
【結果】発症4日目における賦活部位は、麻痺側では左補足運動野に賦活を認められた。非麻痺側においては、右補足運動野に賦活を認め、中心溝を上行した斜め前方内側にも賦活を認めた。発症8日目における麻痺側での活動においては、左補足運動野に前回より強い賦活を認め、更に右の頭頂葉に賦活を認めた。非麻痺側においては、右補足運動野に賦活を認めた。発症13日目における麻痺側での活動では、ほぼ前回同様であるが、右頭頂葉における賦活に低下が認められた。非麻痺側においても、前回同様に右補足運動野に賦活を認めた。
【考察】脳梗塞急性期患者に対して手指対立運動を課題とした機能的MRIを用い、運動関連領野の経時的な変化の検討を行った。補足運動野は、賦活の強さに差はあるが3回の撮像を通じて活動がみられた。しかし、発症8日目における麻痺側での手指対立運動課題において、発症4日目にはほとんど認められなかった頭頂葉の賦活が認められ、発症14日目の撮像では頭頂葉における賦活に低下が認められた。内藤は、身体運動表象の統合過程と運動制御において、その情報処理には背側運動前野、補足運動野、帯状回運動皮質および小脳運動領域などの運動関連領野が関与し、これらは、運動の準備や運動表象の形成にも関与すると述べている。また、身体部位の表象においては、左右半球間での神経連絡結合の強い補足運動野前方部などを通じて、主に大脳右半球前頭―頭頂葉の高次領域に収束し、身体全体としての運動表象が形成されると述べている。これらのことから、本症例における回復過程において補足運動野と右側の頭頂葉の賦活が麻痺の回復過程に関与しているのではないかと考えられた。