抄録
【目的】CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy;CIMT)は、麻痺側上肢の短期集中的な訓練により運動機能回復と長期持続的な効果が報告されている。短期間の治療介入の機能回復後に、脳活動パターンの変化が生じることも示され、CIMTと脳神経系の再構築との関連性が指摘されている。しかし、CIMTにおける脳活動パターンの報告は治療介入前後の変化を示したものが殆どであり、長期の運動回復後の活動パターンの動態について調べた報告は少ない。本研究は、麻痺側上肢に対するCIMT介入後6ヶ月まで持続的な運動機能の回復を呈したケースの脳活動をfunctional MRI(fMRI)を用い時系列的に計測した。CIMTの長期的な効果と脳活動パターンの動態を調べたので報告する。
【対象・方法】50代男性、両手利き。両側視床に梗塞病変を認めた。臨床所見は、右上肢に運動麻痺を認めた(左半身に異常所見認めず)。明らかな神経心理学的所見認めず。運動機能評価は、CIMT前・後・1M・3M・6Mに、FMA、STEF、握力、生活場面での麻痺側上肢使用頻度を検査した。fMRI(self paceでのI-II指タッピング課題)をCIMT前・後・6Mに実施した。対象群として同一条件で健常者6名を測定した。CIMTは、発症後76日より2週間(平日の10日間)実施した。1日5時間の訓練と、日中の約90%の時間で非麻痺側上肢の使用を拘束器具で制限した。
【結果】運動機能は、FMA、STEFともに介入後に改善し、STEFにおいて1M後にさらに向上を認め、6Mまでそのスコアが維持された。握力は6Mまで持続的な向上を認めた。麻痺側上肢の使用頻度は、介入後の明らかな増加と、6M時点では発症前とほぼ同様の使用場面が確認された。fMRIは、健常対象群では、右手運動時に対側一次運動野と同側小脳に活動を認めた。症例は、CIMT介入前は両側(対側優位)の1次運動野と対側小脳前葉に賦活領域を認めるも、介入後は新たに同側小脳前葉に強い賦活の出現を認めた。6Mでは、対側小脳の賦活が消失し、反対側1次運動野と同側小脳前葉の賦活を認めた。
【考察】CIMTは、麻痺側上肢使用頻度の促進を目的としており、長期の改善は日常生活における使用頻度の増加が機能回復の背景とされている。本例においても長期的な運動機能の改善を認めておりCIMTによる効果の特性が示唆される。fMRIは、介入前後における一次運動野の両側性活動などのパターンは脳損傷例における諸家の報告と一致する。本症例の特徴的な所見は小脳活動の継時的な活動変化(介入後の同側小脳活動の出現)と、6Mで健常対象群と同様の賦活パターンに変化した事であり、これは回復良好例の活動パターンを呈していた。今回の結果は、CIMTによる回復良好例の長期的な脳の再組織化を反映したものであると推察される。