抄録
【目的】
片麻痺症例(以下CVA)に対して、座位側方移動時の姿勢反応から座位動的安定機能を評価し、治療介入を試みている。歩行可能なCVAにおいても、この座位側方移動時に骨盤の側方傾斜能力や体幹反応の低下を多く認める。今回はこの反応を正しく理解し理学療法に応用していく目的で分析を行ったので考察を加え報告する。
【対象と方法】
対象は回復期リハ病棟に入院中で本研究に同意を得た歩行可能な男性CVA7名(左片麻痺4例、右片麻痺3例、年齢54.7±7.4歳)と、健常男性7名(年齢25.4±2.6歳)であった。方法は、高さ40cmのベッドを用いて開眼にて腰掛け股・膝関節を90°に設定した端座位を動作開始肢位とした。測定は開始肢位から左右両方向へ移動した後元の位置に戻る動作で行った。その際両上肢は体幹前面で組み上肢の影響を受けない肢位とした。撮影は後方にビデオカメラを設置し被験者の身体合計10箇所に反射マーカーを貼付し行った。撮影した画像から2次元動作解析ソフトMove-Tr32/2D(ライブラリー社製)にて動作開始前から骨盤が最大傾斜した位置(Max)までの角度変位(骨盤、体幹頚部、胸腰椎、頚椎)を算出した。また、Max時の立ち直り角度(Righting Reflex Angle、以下RRA)を体幹頚部角度-胸腰椎角度で算出した。算出したデータを、健常者(以下健常)、CVA麻痺側(以下麻痺)、CVA非麻痺側(以下非麻痺)で比較した。統計学的処理はt検定及び分散分析と多重比較を用い有意水準を5%とした。
【結果】
動作開始前とMaxまでの角度変位は、健常・麻痺・非麻痺間の骨盤、体幹頚部、胸腰椎、頚椎全てにおいて有意差を認めた(P<0.05)。骨盤は健常35.5±7.3°に対して麻痺19.3±5.1°、非麻痺21.2±4.7°で有意に傾斜角度の減少がみられた。その時の胸腰椎は、健常20.5±7.4°に対して麻痺0.8±7.6°、非麻痺0.1±9.3°で有意に側屈角度の減少がみられた。頚椎は、健常9.6±6.5°に対して麻痺1.0±4.0°、非麻痺0.5±7.3°で有意に側屈角度の減少がみられた。RRAは、健常7.8±2.6°に対して麻痺1.6±2.8°、非麻痺1.9±2.7°で有意にRRAの減少を認めた。
【考察】
我々は座位で身体を側方へ移動する際、支持となる座面に体重を移動することを意識するだけで、骨盤傾斜や体幹を立ち直らせることを意識することはなく、このような身体反応は無意識下でおこる不随意的な運動といえる。この運動には骨盤や脊柱、頚椎が関与し運動を制御している。今回の研究では、骨盤傾斜は健常者に比べて片麻痺者の麻痺側・非麻痺側への角度変位が有意に小さく、立ち直り角度も有意に減少していた。この減少には胸腰椎と頚椎両方の反応低下が関与している事が分かり、身体を鉛直に保つために必要な視覚性、前庭性、固有感覚性の身体への反応を再教育していく必要性が示唆された。