抄録
【目的】脳血管障害(以下CVA)患者において、座位での側方重心移動能力を測定する指標として被験者に随意的に可能な限り不安定板上で座面を傾斜させる課題を行った。本研究の目的はCVA患者の側方重心移動能力と座面が傾斜した状態から水平にするために身体を立ち直らせる能力との関連を検討することである。
【対象】対象は自力で端座位保持が可能なCVAによる片麻痺患者9例(左片麻痺4名、右片麻痺5名、平均年齢66.3±8.5歳、発症からの平均期間72.2±14.7日、Brunnstrom stage 上肢、下肢ともにIV~VI)であった。全ての被験者に研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。
【方法】測定は不安定板上で足底非接地座位にて行った。水平課題では座面を10°傾斜させた状態から水平になるまでを随意的に行わせた。また、随意的に傾斜させる課題(傾斜課題)では、被験者がバランスを崩さず座面を傾斜できる最大の角度まで行わせた。傾斜はそれぞれ非麻痺側へ傾斜する方向からランダムに二試行ずつ行った。被験者の頭部・体幹・座面に反射マーカーを貼付し後方からのビデオ撮影を行い、その画像から動作分析ソフト(DKH社製Frame-DIAS2)を用いて頭部、座面の鉛直軸あるいは水平軸からの偏倚角度を算出した。体幹に関しては骨盤に対する立ち直りの角度を算出した。課題間での比較は体幹の運動方向から、水平課題で非麻痺側から傾斜した状態から開始した値と傾斜課題で麻痺側に傾斜した値を比較し、反対側についても同様とした。統計学的解析は対応のあるt検定およびPearsonの積率相関係数を使用した。
【結果】傾斜課題では麻痺側への傾斜角度が有意に小さかった(p<0.05)。非麻痺側から開始する水平課題で座面が麻痺側へ傾斜しているほど、傾斜課題で非麻痺側への座面の傾斜角度が大きいという正の相関を認めた(r=0.76, p<0.05)。また、体幹に関しては水平課題で非麻痺側に偏倚しているほど傾斜課題で体幹の立ち直り角度が大きいという負の相関を認めた。(r=-0.79, p<0.05)。
【考察】傾斜課題で麻痺側への傾斜が有意に小さいことは片麻痺患者の麻痺側への重心移動が困難という臨床像と一致している。このことから、麻痺側から開始する水平課題にいずれの部位も差を認めなかったのは非麻痺側への傾斜課題がより容易だったからと考えられる。非麻痺側から開始する水平課題での結果は麻痺側へより立ち直れる患者は体幹機能も良く、傾斜課題でも大きく座面を傾斜できたからと考えられる。また、同じ課題での体幹に関しては、水平課題で非麻痺側に傾斜している被験者は対側への傾斜をするためにより大きな立ち直りが必要なためこのような結果になったと考えられる。これらのことから傾斜課題の座面の傾斜角度や体幹の立ち直り角度は水平課題での結果に影響を受け、両方の課題を行うことで体幹機能を評価できる可能性が示唆された。