抄録
【目的】重症心身障害児(以下、重症児)における呼吸の問題は生命予後に直結し、理学療法介入においても重要な問題となる。しかし、重症児における呼吸機能の一般的な特性については報告が少なく、重症児の呼吸機能特性を明らかにすることは重要であると考えられる。そこで今回我々は、重症児の安静睡眠時に測定した一回換気量(以下、TV)を指標に、側弯との関係を検討した結果、若干の知見を得たので報告する。
【方法】対象は平成18年7月から9月の間に入院加療を行った重症児16名(男児9名、女児7名)。平均年齢10.1±4.8歳、大島の分類では1が14名、2が2名であった。気管切開などの外科的処置はなく、上気道の著しい閉塞を認めるものもいなかった。側弯角度の測定はCobb法を用いX-p上で確認を行い、複数の弯曲を有するものについては最も著明な彎曲部位の測定を行った。TV測定にはミナト社製AS300-Eを用い、夜間睡眠時または午睡時に測定を実施した。測定姿勢は最も安定して測定が行えた左側臥位とし、測定は被検者の顔面にマスクを軽く当て、エアーリークを防ぎ5分間連続で実施した。測定値の解析は、第42回日本理学療法学術大会にて報告した方法に準じて行った。なお、本研究は倫理委員会の承認を受け、保護者の同意を書面にて得た上実施した。
【結果】対象者のCobb角は平均44±39.3度で、右凸7名、左凸9名であった。測定されたTVは身長および体重と有意な相関関係を示した(TV-身長:r=0.652、TV-体重:rs=0.691、p<0.01)。側弯角度との関係においては、TVを体重で除した値(以下、換気体重比)で有意な負の相関を認めた(rs=-0.579、p<0.05)が、TVを身長で除した値(以下、換気身長比)では有意な関係性は認めなかった。また、側弯の凸方向の違いでは、右凸、左凸で換気体重比に有意な差は認めなかった。次に、探索的に対象者をCobb角15、20、40度で各2群に分け換気体重比を用い比較したところ、側弯角度が20度以上になると有意に小値を示す結果となった(p<0.01)。
【考察】今回の結果からは高度な側弯などのため身長の計測が一定して行えなかったことからTVとの関係では相関関係を認めたものの、側弯角度と身長との関係では有意な関係性が認められなかったものと考えらる。一般的に換気量や肺活量は身長との関係性が高いことから身長を用いて標準化することが多いが、重症児など側弯角度が強い場合には体重を用いて標準化することも有用であると思われた。側弯角度とTVの間には負の相関が認められるとの報告が多く見られ、今回の結果も先行研究を支持するものであると考えられた。また、Cobb角が20度で有意な差が見られることから、側弯角度が20度付近になると呼吸機能に対して影響を及ぼす可能性があると考えられ、理学療法介入における指標となりうる可能性が示唆された。