抄録
【はじめに】
重症心身障害児は、異常な筋緊張亢進や二次的に起こる側弯などの変形により非対称姿勢を呈する。 非対称姿勢を予防するためには、日常生活での姿勢ケアが重要となる。そこで我々は、一入院患児に対して背臥位での姿勢ケアを開始した。今回はその取り組みの内容について報告する。
【症例紹介】
研究主旨を説明し保護者の同意を得た低酸素脳症後遺症の8歳の女児、状態像は痙直型四肢麻痺、GMFCSレベル5、大島の分類1、Chailey姿勢能力発達レベル2である。背臥位での身体アライメントは、左凸の脊柱側弯(cobb角14゜)を呈し、頚部伸展・右回旋、肩甲帯および骨盤は右回旋、下肢は膝関節の屈曲拘縮があり、右方向への風に吹かれた股関節または左右差のある開排位をとっている。生活上の姿勢としては、日中活動時は様々な姿勢をとっているが、背臥位については姿勢保持具を有していない状況である。
【方法】
対称的背臥位の姿勢保持具を作製した。姿勢保持具は体幹および骨盤の側方支持、頭部、肩甲帯および腰椎部支持、大腿から下腿までの支持により、全身の接触支持面での体重負荷の均一に配慮した。背臥位保持の実施頻度と時間は、週5日、夕食前の30分間とした。姿勢保持の効果については、1)下肢の関節可動域、2)胸郭変形、3)体幹の非対称性、4)Goldsmith指数、5)身体圧力、6)筋緊張を評価した。尚、2)は胸郭の厚さ/幅の比率を計測、3)は烏口突起から上前腸骨棘までの垂直および対角方向の距離を計測、5)はXセンサーversion4.1を使用し、頭部と肩甲帯および臀部の身体圧力などを測定、6)はNEC三栄社製多用途テレメーターサイナアクトIIを使用し、両側の胸鎖乳突筋と僧帽筋の筋活動を測定した。全ての測定は、基礎水準測定期(A)、操作導入期(B)の開始6週後、第二基礎水準測定期(A)の開始4週後に行い、ABAデザインによる検討を行った。
【結果およびまとめ】
身体圧力では操作導入期において頭部と肩甲帯の平均圧力が増加し最大圧力が減少した。臀部は平均圧力、最大圧力共に減少した。また胸郭の厚さ/幅の比率でも同期において胸郭の扁平化に改善が見られ、Goldsmith指数でも同期において左右差の軽減が見られた。
今回の経験から、姿勢ケアの効果の手ごたえを感じたが、1日における実施時間や症例数において不十分であるため、今後姿勢ケアを広げていくにあたり、症例数を増やしながら24時間姿勢管理の方法を検討し、今回と同様の評価方法で考察を深めていきたい。