抄録
【はじめに】我々は過去の本学会において,人工股関節置換術(以下THA)後には股関節周囲筋に比べて膝伸展筋の筋力回復が遅延することを報告してきた.このようなTHA後の膝伸展筋力回復遅延の要因の1つとして,術後早期の立位や歩行における術側への荷重不十分により膝伸展筋の活動が低下していることが挙げられる.また,この術側荷重の学習には,左右への重心移動を伴うステップ動作が有効であると考えられる.そこで今回,術後早期の術側荷重学習を目的としたステップトレーニングが下肢筋力および歩行能力の回復に与える影響を検討した.
【方法】片側セメントレスTHAを施行した36名の女性変形性股関節症患者を,通常の術後理学療法を施行したコントロール群(18名,年齢60.1歳;以下C群)とステップトレーニングを行った群(18名,年齢59.1歳;以下S群)に分けた.両群とも術後離床時から荷重制限は設けず,術後1日目から筋力増強運動および関節可動域運動を開始し,術後5日目から歩行練習を行った.S群は術後プログラムに加えて術後7日目からミニステッパー(Fighting Load社製)を用いて左右交互にステップ動作を反復するトレーニングを行った.ステップ回数は開始当初50回とし,以降週毎に50回ずつ加算した.最大等尺性筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製)を使用した.測定対象は両側の膝伸展と屈曲,股外転,伸展および屈曲とし,測定時期は術前,術後2週,4週および6週時点とした.筋力データはトルク体重比(Nm/kg)と術前比(術後トルク/術前トルク×100%)で表した.また,最大歩行速度を術前と術後6週時点に測定した.統計学的検定には,群間比較にt検定とMann-Whitney検定,群内比較に反復測定分散分析を用いた.
【結果】年齢,身長,体重,術前JOAスコアおよび術前の術側・非術側筋力においては両群の間に有意な差は無かった.両群間で術後の筋力回復に差が認められたのは術側の膝伸展と股外転であり,その他の下肢筋力においては両群で有意な差は認められなかった.群間比較の結果,術側膝伸展の術前比は術後2週,4週,6週(C群82%,S群102%)ともC群よりもS群のほうが有意に高かった.また,術側股外転の術前比は術後4週と6週(C群108%,S群131%)においてC群よりもS群のほうが有意に高かった.群内比較の結果,術側膝伸展筋力において,C群では術後6週で術前レベルまでの回復は認められなかったが(術前0.98,6週0.78Nm/kg),S群は術後6週で術前と同レベルまで回復した(術前0.93,6週0.91Nm/kg).また,術側股外転筋力において,C群は術後6週時点で術前レベルまでの回復に留まったが(術前0.80,6週0.86Nm/kg),S群は術後6週で術前よりも有意に高いレベルまで回復した(術前0.74,6週0.94Nm/kg).歩行速度は術前,術後6週とも両群に有意な差はなかった.以上の結果から,THA後早期におけるステップトレーニングは膝関節伸展筋力と股関節外転筋力の回復に有効である可能性が示唆された.