抄録
【はじめに】ACL再建術後の術後成績について、我々は非手術側である膝の弛緩性が術後の可動域や筋力の回復の指標になると考えている。言い換えれば、術後の理学療法は非手術側の膝の弛緩性を参考にして進める事が多い。今回、その指標となる膝の弛緩性(前方移動量)の値を調査した。
【対象と方法】対象は当院にて一側のACL再建術を施行した435名(男性195名、女性240名)の、靭帯損傷や半月板損傷などの外傷がない非手術側の435膝である。対象には調査の主旨を説明し同意を得た。対象を性別と各年代(10代、20代、30代、40代以降)に分け、KT2000により133Nでの前方移動量(以下、AD)を計測し、男女間、年代間で比較検討した。
【結果】(1)男性全体と女性全体の平均値の比較では男性7.9±2.2mm、女性8.6±2.3mmで男性の方が有意にADが小さかった(P<0.01)。(2)年代別の男女のADの結果は、男性は10代8.4±2.5mm(51)、20代7.6±2.1mm(90)、30代8.1±2.2mm(48)、40代以降6.2±0.7mm(6)、女性は10代8.6±2.6mm(126)、20代8.5±2.2mm(61)、30代8.6±2.2mm(32)、40代以降9.0±1.9mm(21)であった(カッコ内はサンプル数)。年代別の男女の比較では、20代のみ女性より男性のADが有意に小さかった(P<0.05)。(3)年代間による比較では、男女とも有意な差はなかった。
【考察】ACL再建術を施行した反対側の膝のADは、男性全体と女性全体で比較すると有意に男性の方が小さかった。しかし、10代毎の年代別で比較すると平均値は全ての年代で男性の方が小さいものの、有意差は20代でしかみられなかった。我々は非手術側の膝のADは各年代で男性の方が小さく、年代別では年齢が高いほどADが小さくなるのではないかと考えていたが、今回のKT2000の計測では全ての年代で有意差はなかった。我々はACL再建術後の治療を行う上で、術前に反対側の膝の弛緩性を計測することにより術後の状態や経過を予測している。例えば、非術側のADの小さいものは術後の伸展拘縮を生じやすく、そのため筋力の回復も遅れる印象がある。そのために非術側の基準値(平均値)が必要であると考えている。さらに当院では、ACL再建者は若年者から60歳以上までおり、その基準も各年代で細かく設定する必要があると考え、今回の研究に至った。また、10代に関しては身体の発達が完成する時期であり、10代前半と後半では体の成熟度が全く違うため膝の緩みも変化すると考えられる。このため10代から20代前半まではさらに詳細なADの分析が必要であろう。
【おわりに】ACL損傷を生じた反対側の膝を健常膝としていいか、という議論もあるが、仮に両側の膝が健常であっても今後ACLを損傷する可能性もあり健常を定義するのは難しい。今後、両側とも外傷のない膝のADが今回の値と差がないか調査するとともに、ACL損傷の受傷形態の違いと非手術側の膝の緩みに関係があるか調査したい。