抄録
【目的】近年、スポーツ医学の分野において外傷予防が注目され、先行研究により様々なエクササイズが報告されている。日々の練習メニューに加え、全ての外傷予防エクササイズを行うことは時間的制約の面から難しく、エクササイズを選択することも今後必要になってくる。そこで、本研究はスポーツ活動中の外傷予防につながるとされるエクササイズを重心動揺の視点から解析し、各エクササイズの特徴を検討することを目的とした。
【方法】対象は大学女子バスケットボール選手5名とし、事前に研究目的および研究内容、プライバシー保護に関して説明を行い、対象者の同意を得たうえで実施した。エクササイズは半円球状のバランスディスクを用いた3種類とし、エクササイズ中の重心動揺を測定した。統計にはPaired t-testを用い、バランスディスクを用いた場合と用いない場合の各エクササイズの重心動揺パラメータ値を比較した。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】エクササイズ1:片脚立位保持エクササイズでは、バランスディスクを用いることにより有意に重心動揺パラメータ値は増加していた(p<0.05)。また、内外方向よりも前後方向の振幅が大きかった(p<0.05)。エクササイズ2:片脚立位にて一側下肢および両上肢を水平に保持するエクササイズでは、バランスディスクを用いても値に差はなかった。エクササイズ3:ハーフスクワット動作では、バランスディスク上で行うことにより、単位時間あたりの重心移動距離が増加した(p<0.05)。
【考察】測定を行った3種類のエクササイズの中でエクササイズ1及びエクササイズ3の重心動揺パラメータには有意差が認められたことより、これらのエクササイズはバランスディスクを用いることによって、より不安定な状況下が作り出されており、バランストレーニングを行ううえで適した環境と考える。一方、エクササイズ2の重心動揺パラメータには有意差を認めず、バランスディスクを使用しない状況下でも同等の不安定性を得られることが示唆された。外傷予防エクササイズを導入するうえでは時間的制約の他に、トレーニング器具等の環境も考慮しなければならない。特別な器具がない場合、それらを用いなくても同等の不安定性を得られるトレーニングを選択することにより、効率的にトレーニング効果を得ることにつながると考える。