抄録
【目的】ストレッチポール(LPN社)は米国においてフォームローラーとして広く使用されている運動・治療用具であり、ベーシックセブンは体幹周辺のリラクゼーションに効果的な運動プログラムである。これまで脊椎のリアライメント効果(杉野2006)、胸郭拡張機能改善(秋山2007)、肩関節の柔軟性改善(森内2007)などが報告されてきたが、その体幹柔軟性および胸郭スティッフネスへの即時効果については未だ報告されていない。この研究は以下の研究仮説の検証を目的とする。研究仮説は、(1)ベーシックセブンは即時的に体幹の柔軟性を改善する、(2)ベーシックセブンは即時的に胸郭のスティッフネスを低下させる、の2点である。
【対象】対象者の取込基準は健常男性、18-29歳、体幹の柔軟性に劣る(立位体前屈にて指先が地面に届かない者)であり、除外基準は女性、囚人、医学的問題として腰痛、前屈時の疼痛、運動制限、内科的リスク、精神障害、コミュニケーション障害のある者、とした。ヘルシンキ宣言の精神に基づき作成された同意書に署名した20名の被検者は、無作為に2群に割り付けられた。
【方法】本研究は2群による無作為化対照実験であり、A群はベーシックセブンを、B群はストレッチポールを用いずにベーシックセブンの上下肢の運動を実施した。観察因子は体幹後屈角度(傾斜計)と体幹圧力分布(ニッタ社)であり、その測定は介入直前と介入直後(5分以内)に盲検化された測定者が実施した。これらの計測方法については予備研究にて検者内・検者間再現性を検証した。統計学的検定にはF検定に基づき等分散または不等分散のt検定を実施し、多重検定の処理としてBonferroni補正を実施した。なお、補正前の有意水準をp<0.05とした。
【結果】介入の前後の体幹後屈角度の変化は、A群では6.3°±6.4°(平均±標準偏差)、B群では-1.3°±5.7°であった(p=0.010)。介入前後の体幹荷重量に対する体幹上部荷重量の比の変化は、A群では2.9%±2.2%(平均±標準偏差)、B群では0.2%±4.2%であった(p=0.023)。
【考察】体幹後屈については先行研究結果(杉野2006)を支持し、脊椎伸展可動域の改善を示唆した。一方、体幹荷重量に対する体幹上部荷重量の比の増加は、背臥位における胸郭の扁平化(可動性改善)および胸郭のスティッフネスの低下を示唆した。本研究の問題点として、統計学的パワーの不足や結果の一般化の制限が挙げられるが、再現性の高い計測方法を用い、盲検化無作為化対照研究のデザインを用いた点などを考慮すると信頼性の高い研究といえる。以上により研究仮説は支持されたと結論付けられる。
【まとめ】この研究の結論は、(1)ベーシックセブンは即時的に体幹の柔軟性を改善する、(2)ベーシックセブンは即時的に胸郭のスティッフネスを低下させる、である。