理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1000
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骨・関節系理学療法
高校野球選手の腰痛と股関節機能の評価
平成18年度長野県高校野球メディカルチェック事業からの分析と今後の展開
児玉 雄二青木 啓成山岸 茂則長崎 寿夫小池 聰村上 成道
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キーワード: 腰痛, 高校野球, 股関節機能
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抄録

【目的】長野県理学療法士会社会局スポーツサポート部では、第42回日本理学療法士学術大会において、投手・捕手の腰痛と可動域特性について報告を行った。今回は、平成18年度長野県高等学校野球連盟メディカルチェック事業(以下MC)に参加した腰痛を有する選手を対象に、腰痛と股関節の可動域特性の関連性について知見を得たので、報告するとともに、両者の関係についての新たな評価法の導入の必要性について検証したい。
【対象・方法】MCに参加した高校野球選手150名のうち、腰痛を有する選手36名(投手19名、捕手10名、野手7名:以下全腰痛群)、と主訴が全く無い選手22名(投手21名、捕手1名、野手0名:以下非障害群)を対象とした。さらに全腰痛群は腰痛のみの症状を呈する選手22名(投手10名、捕手8名、野手4名:以下腰群)と腰痛と肩痛または肘痛を併発している選手14名(投手10名、捕手8名、野手4名:以下腰-上肢群)に分類した。
【結果】全腰痛群は非障害群と比し、非投球側股関節内転(p<0.001)、投球側股関節内旋(p<0.05)、非投球側股関節内旋(p<0.01)が低下し、また、体幹投球側回旋(p<0.05)は非障害群に比し増大していた。一方、腰群と腰-上肢群の関節可動域の比較においては非投球側股関節内転(p<0.01)のみ腰-上肢群が低下していた。(Unpaired student’s t-test)
【考察】腰痛のある18歳以下のスポーツ選手において、その原因の一つに股関節周囲筋の硬化があるという報告があるが、今回の結果では同様の事が得られていると考えられる。全腰痛群はkemp test陽性者に有意差(p<0.001:カイ2乗検定)が認められたが、医師の診察ブースでは、明らかな神経学的所見を有する選手おらず、股関節機能低下から起因する筋々膜性腰痛の疑いと診断されていた。野球動作(投げる・打つ)のように効率的な回旋運動がパフォーマンス発揮の力源になる動作において、その回旋の中心となる股関節の運動について現場では、「股関節をたたむ」、「股関節をしめる」。等の用語が使われている。この運動を股関節の可動性で表現すると、骨盤に対し軸足は伸展・内転・内旋であり、非軸足は屈曲・内転・内旋である。主として関与する周囲筋としては、大腿筋膜張筋、腸腰筋、殿筋群、股関節内転筋群、大腿直筋があげられる。今回の結果ではこれら筋群が野球における障害発生因子の一つとも考えら、これらの筋群の硬化による異常なアライメント(股関節外旋・骨盤後傾位)は体幹機能の低下を招来し、強いては上肢機能への悪影響も予測される。腰群と腰-上肢群の有意差が乏しい事からは、腰痛の存在は股関節機能の低下と上肢障害へのリスクが高い、という事も推察される。これらの結果に基づいて、現在我々は「股関節をたたむ」という事が、障害の予防兼パフォーマンスの向上にも寄与すると推論し、この動作の定量化について検討している。

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© 2008 日本理学療法士協会
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